両想いになった瞬間に恋した運命の相手が消えてしまうことから、見上愛ふんするヒロインが何度も運命の男性との出会いと別れを繰り返すことになる異色の恋愛映画「不死身ラヴァーズ」(5月10日よりテアトル新宿ほかにて全国公開)。恋愛初期のドキドキ感だけを凝縮したようなラブストーリーの本作は、松居大悟監督が映画化を構想してから10年を経て完成した渾身の1作だ。

 

原作のその先までを描いたような物語

原作は、『進撃の巨人』の諫山創のアシスタントだった高木ユーナが、2013~2014年に『別冊少年マガジン』(講談社刊)で初連載した同名漫画。連載時には漫画ファンから「今までに読んだことのないジャンル」「革新的構造の発明的作品」と話題になったという。その映画化を松居大悟監督は10年前から構想していたが、なかなか製作資金が集まらなかった中、「笑いのカイブツ」(24)「ほつれる」「そばかす」(23)「ケイコ 目を澄ませて」「よだかの片思い」「LOVE LIFE」(22)などの良作を手掛けている映画製作にも意欲的なメ~テレと組むことで念願の企画が実現。原作の“好きになる男性”と“好きになられる女性”という設定を大胆に入れ変えつつも本質はぶれることなく、未完に終わった原作のその先を描いたような、原作ファンも見たかった作品に仕上げてみせ、原作者の高木ユーナも「初鑑賞中はあまりの素晴らしさに自分の血が沸騰する音が聞こえました」との心からの好評を寄せている。

主人公の長谷部りの(見上愛)は、7歳の頃に入院していた病院で出会った少年・甲野じゅん(佐藤寛太)のことを“運命の相手”と信じて探し続けている。そして中学2年生になったりのは、ある日、後輩に陸上選手の甲野じゅんがいることに気付き、陸上部のマネージャーとなる。陸上競技会に挑むじゅんを熱烈に支え続けた彼女は、両想いになることに成功するも、彼からの想いを聞いた途端になぜかじゅんは消えてしまう。りのはその後の人生の中で、高校の軽音部の先輩、登下校中の際に会った車椅子の男性、バイト先のクリーニング店の店主として、何度も「甲野じゅん」を見つける。その度に恋に落ち、全力で好きだと伝えるが、両想いになった途端にやはり彼は消えてしまう。そんな不思議な報われない恋を繰り返してきたりのは、大学内でまた「甲野じゅん」と出会っても好きになることを躊躇するようになる。しかし、彼のある事情を知ったりのは、再び全力でじゅんに毎日好きだと伝えるようになるが……。

 

心を揺さぶる濃密な青春映画かつ恋愛映画

両想いになった途端に消えるというのは、失踪したり消息不明になったわけではなく、文字どおり目の前から忽然と消えてしまう。一緒に会ったこともあるはずの幼馴染の親友・田中(青木柚)やバイト先の優しい先輩・花森(前田敦子)ら周囲の人に聞いても、誰も彼のことを知らず、元からじゅんが存在していなかったかのようになる。ではSFやファンタジーなのかというと、それは最後に明かされることになる。

年齢や立場は異なっても「甲野じゅん」である男性と何度も出会う主人公・りのは、その度に理屈抜きで彼を好きになる。好きな理由を聞かれても「好きなものは好きなの」「人を好きになる時の引力ってすごいんだよ!」と暴走気味に突っ走る。両想いになると彼が消えてしまうとしても、全力で想いを伝えずにはいられず、好きになってもらうために努力する。しかし、その気のなかった相手を振り向かせることに成功しても、それは終わりでもあるというジレンマが、とても切ない。

人を好きになった時の衝動的なときめきだけを何度も追い続けるような本作は、ポジティブな恋の力に満ちていて、好きな想いを相手に伝えることの大切さやその瞬間のドキドキを思い出させてくれる。りのは、全力で相手に毎日「大好き」と伝え続けるが、両想いになるとその先がない。それでも先のことなど考えずに好きだと伝えずにはいられない主人公の恋のパワーには圧倒されると共に不思議な力をもらえる。普通は好きな想いを相手に伝えること自体が難しいものだが、伝えなければ何も始まらないし、付き合うことができてもそれを続けていくことの方が難しい場合もある。劇中でりのは親友の田中から「恋に恋しているだけだろう」とも言われるが、好きになった時の気持ちをずっと忘れずに持ち続けることができたら、それほど幸せなことはないし、そうありたいとも思わせてくれる。

前半はとにかく疾走するラブストーリーという感じで怒涛の展開を見せ、まさに原作のパワフルさそのものだが、大学生のじゅんと出会ってからのオリジナルな展開は、不器用な若い男女の恋をじっくりと見せていく。大学で出会ったじゅんは、りのが毎日好きだと伝えても消えないでいてくれるが、消えてしまった時よりも切ない展開ともなっていく。「くれなずめ」(21)「ちょっと思い出しただけ」(22)などの松居大悟監督ならではの共感したり懐かしさを感じる人もいれば、切なさや痛みも含め、胸の奥底にしまっていたり忘れかけていた様々な想いをくすぐられるような、心を揺さぶる濃密な青春映画かつ恋愛映画となっている。

 

唯一無二のハマリぶりを見せる恋に真っ直ぐな主人公役の見上愛

主人公の長谷部りのを演じるのは、2021年のドラマ『きれいのくに』で注目を集めて以降、映画「異動辞令は音楽隊!」(22)「658km、陽子の旅」(23)や放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』など出演作が相次ぎ、大活躍を見せている見上愛。今回は中学生から大学生までを演じ分け、様々な髪型と衣装も披露。一見クールビューティーな顔立ちなのだが、コロコロ変わる表情も含め豊かな感情表現力があり、時に繊細に時に大胆に様々な芝居を見せる。全力で走り、人力車を引き、ギターを弾きながら歌いと、全編出ずっぱりで全力投球の演技が気持ちよく、唯一無二のハマリ役。恋する想いに真っ直ぐすぎて暴走する危ない女性にも見えかねない主人公を、ギリギリのところで愛らしく魅力的に見せているのは彼女ならではだろう。確かな演技力と底の見えないポテンシャルの高さも感じられ、今後のさらなる活躍が楽しみだ。また、劇中で見上が弾き語るGO!GO!7188の『C7』は、学生時代にバンド活動をしていた見上自身が弾ける曲の中で松居監督が選んだそうだが、その歌詞のシンクロぶりも面白い。

運命の相手・甲野じゅんを演じるのは、劇団EXILEに所属し、映画「軍艦少年」(21)「正欲」(23)などに出演した佐藤寛太。佐藤は、年齢も性格も異なる5人の「甲野じゅん」を演じ分け、確かな実力を発揮している。そして、りのの幼馴染・田中役には、松居監督の作品には「アイスと雨音」(18)以来の出演となる青木柚。見上とはドラマ『きれいのくに』や『往生際の意味を知れ!』(23)、放送中のドラマ『Re:リベンジ-欲望の果てに-』などで度々共演してきているだけに、腐れ縁の異性の親友役を違和感なく演じて見せている。

劇中音楽とエンディングの主題歌は、数々のアニメ、映画、ドラマ、CMなどにも楽曲提供しているスカートの澤部渡。主題歌『君はきっとずっと知らない』は本作のために書き下ろされただけに、ラストを締めくくるのにピッタリな、感動の余韻を優しく心の中にずっと留めてくれるような楽曲になっている。余談ながらこの主題歌のMVは松居監督が演出し、佐藤寛太と青木柚、さらには原作者の高木ユーナも出演。映画の世界観も楽しめる味わい深いMVになっているので、映画本編と併せてお薦めしたい。

 

文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

 

「不死身ラヴァーズ」
5月10日(金)よりテアトル新宿ほか全国にて公開

2024年/日本/103分  


監督:松居大悟
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』(講談社「別冊少年マガジン」所載)
脚本:大野敏哉、松居大悟 

主題歌:「君はきっとずっと知らない」スカート(PONYCANYON / IRORI Records Records)

出演:見上愛 / 佐藤寛太
落合モトキ、大関れいか、平井珠生、米良まさひろ、本折最強さとし、岩本晟夢、アダム、
青木柚、前田敦子、神野三鈴

配給:ポニーキャニオン
© 2024 「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©️ 高木ユーナ/講談社
公式HP:https://undead-lovers.com/

 

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