「亡命記」のストーリー
戦争最中、左千子は日本に留学していた中国人の医学生顔紹昌と結婚し、暫くして夫と共に南京に渡った。紹昌は其処で南京新政府に協力し、林白成や小久保清忠らと共に和平のために努力してきたが、昭和二〇年終戦と共に重慶政府に狙われるところとなった。左千子には一人娘の慧子を育てゝもらいたいと頼み、日本に送り返すために涙を呑んで離婚することにしたが、今に必ず日本に帰り何時の日か神戸駅に六時に待っていると言い置いて別れた。間もなく林白成は銃殺され、捕われの身となった紹昌の命も風前の灯であった。日本へ帰った左千子は、慧子を養うために仕事を求め苦難の生活を送ったが、毎夜六時になると夫の面影を求めて神戸駅に空しく姿を現すのだった。そのためにパンパンと間違えられたりしたが、そういう左千子に暖い心を注ぐのは未亡人でダンサーをしている清美だった。だがその清美も亡夫の親もとに唯一人の子供を取り上げられたのを悲観して自殺した。その頃虎口を脱した紹昌が日本へ亡命し、久し振りで神戸駅で妻子と再会した。しかし身体の無理がたゝって左千子はその夜喀血した。紹昌は命の恩人たる陳に協力して麻薬の密売をやることによって金を儲けていたが左千子は泣いてそれを諌めた。間もなく陳は警察に捕えられ、紹昌も同じ目に会ったが、陳が彼を知らぬと云ってくれたゝめに釈放された。それは再会した小久保清忠の好意によるもので、その後も彼は超昌のためにつくしてくれた。妻の療養する高野山へとケーブルで向かう紹昌の心も今は明るい。