定時制高校の科学部が、宇宙に関する研究実験で学会発表を目指す感動の物語が高い評価を受け、ギャラクシー賞2024年12月度月間賞や第28回日刊スポーツ・ドラマグランプリ秋ドラマ選考で2冠(作品賞&助演男優賞)を受賞した、窪田正孝主演のNHKドラマ『宙わたる教室』。原作は直木賞作家・伊与原新の同名小説で、大阪の定時制高校の科学部が科学研究の発表会「日本地球惑星科学連合2017年大会・高校生の部」で優秀賞を受賞し、小惑星探査機「はやぶさ2」の基礎実験にも参加した奇跡の実話に着想を得ている。このドラマ『宙わたる教室』のBlu-rayが、6月27日にリリースされる。豊富な特典映像の内容も含め、本作の魅力を紹介したい。

幻想的な夜の学校で繰り広げられる様々な科学実験にワクワク

本作の主な舞台は、東京の新宿歌舞伎町にも近く、全日制と教室を共有する都立東新宿高校の定時制。そこに通うのは、負のスパイラルから抜け出せずにもがく20歳の不良青年・柳田岳人(小林虎之介)、夫と娘とフィリピン料理店を切り盛りする中年女性・越川アンジェラ(ガウ)、立ち眩みやめまいなどが激しく朝の活動も困難な起立性調節障害のため定時制でも保健室登校を続ける少女・名取佳純(伊東蒼)、青年時代に高校へ通えなかった頑固親父で町工場の元社長・長嶺省造(イッセー尾形)など、年齢もバックグラウンドもバラバラで様々な事情を抱えた多様な生徒たち。

そんな定時制高校に赴任してきたのが、優秀な惑星科学の研究者で大学の助教も務めていた異色の経歴を持つ新人教師・藤竹叶(窪田正孝)。生徒の奥底に眠る好奇心に気付いた藤竹は科学部を創部し、科学実験を通して生徒たちの心に化学変化を起こしていく。そうして、藤竹に導かれた異なる個性を持つ生徒たちは、自身が抱える障害、家庭内の問題、断ち切れない人間関係など、様々な困難にぶつかりつつも、教室内に「火星のクレーター」を再現する実験で学会発表を目指すこととなる。

実話を基にした定時制高校の科学部が学会発表を目指すという根幹に、主人公教師や生徒たちのドラマが絡み合う本作は、フィクションながらもリアルな強度を持つ重層的な奥深い物語となっている。そして、その舞台となる静かな夜の学校は、夕闇の中、一部の教室や廊下にだけ電灯が灯り、光と暗闇が混在する独特な雰囲気を醸し出す。それは様々な思いを掻き立てるし、幻想的に見える瞬間さえある。第1話で理科教師の藤竹は生徒たちに、「今からこの教室にささやかな青空をつくります」と語りかけ、実験を始める。他にも各話で、みそ汁で積乱雲をつくる実験、火山噴火や火星の夕焼けを再現する実験、クレーターの形成実験などが描かれていく。それらは身近なものを使った本当にささやかな実験だが、星が広がる夜空の下の教室で地球や宇宙について学ぶ様子は、夜の教室が広大な宇宙へと繋がっていくような思いにも駆られ、毎回ワクワクさせられる。過去にも定時制学校を舞台にしたドラマや映画はあるが、こんな描き方をした作品は恐らくないだろう。

また、第1話で生徒の柳田岳人の不良仲間たちが「(学校なんて)時間の無駄だろ」と言って柳田を学校から連れ出そうとした際、教師の藤竹が「無駄にするかどうかは自分次第です。ここには何だってあります」「教師にできるのは、場所を用意して待つ。ただそれだけです。ここは諦めたものを取り戻す場所ですよ」と柳田に伝えるシーンも印象深い。その“諦めたものを取り戻す場所”とは、生徒だけでないことが後々分かってくるのだ。過去そのものは取り戻せなくとも、何度でも挑戦はできるし、未来は自分次第で変えられる。誰もがハッとさせられる気付きを与えてくれるような名言やメッセージが多数散りばめられた、夢や希望に溢れた物語で、その気付きは老若男女を問わないが、若者には特に響くものが多いことだろう。

惑星科学の研究者という異色の経歴を持ち、生徒に寄り添う主人公教師が導く人間同士の化学変化

主人公教師の藤竹は物静かで飄々としながらも、窪田正孝ならではの存在感と繊細な表現力が相まって、とても魅力的な人物となっている。将来を期待された惑星科学の研究者だった藤竹は、ある理由から有名大学の助教の座を自ら辞して渡米後、帰国して「やりたい実験がある」と定時制高校の教師となる。淡々と理知的に行動するため、達観したようにも見えるミステリアスな人物だが、実はフラットでニュートラルなだけで、内面には熱いものが溢れ、自身も葛藤や戸惑いを抱えた人間臭い人物であることや、定時制高校の先生を選んだ理由も、次第にわかってくる。そして、「火星はなぜ赤いのか?」と聞かれても「なんでだと思います?」と自分自身で考えることを促し、助言はしても生徒自身が自分なりの答えを見つけるまで優しく見つめ、生徒にとことん寄り添う。誰もがこんな先生に出会いたかったと思うことだろう。

そしてもう一人の主人公とも言えるのが、暗算や数式は得意だが、文字の読み書きが苦手な不良青年の生徒・柳田岳人。中学からドロップアウトした過去を持つ彼は、運転免許取得のため定時制高校で読み書きを学ぼうとするも、以前と同じく学校の勉強についていけず、挫折しかけていた。そんな中、柳田は藤竹との出会いで、自身が文字の読み書きに限定した困難がある学習障害のディスレクシアだったことを知る。これまで「怠けている」「努力や学力が足りない」と誤解され、バカにされることも多い中で生きてきた柳田は、「何年無駄にした?」「なくしたものは取り戻せない」「今さらそんなこと言われてどうしろっつんだよ」「こんな思いをするなら何も知らないままでよかった」と、やり場のない怒りと悲しみを藤竹にぶつける。

ディスレクシアはスティーヴン・スピルバーグ監督やトム・クルーズなどが公表したことで知った人もいるかもしれないが、まだ社会的認知度は低く、医学的な治療法もわかっていない。しかし、トレーニングや音声認識などで対処方法や支援ツールがあることを知った柳田は、勉強への取り組み方が変わり、科学実験の面白さにものめり込んでいく。本作を牽引するこの難しい役を、不良ながら聡明で素直さや可愛げがある人物として魅力的に演じた小林虎之介は、第28回日刊スポーツ・ドラマグランプリ秋ドラマ選考で助演男優賞を受賞するなど本作で大きな注目を浴び、今後大きな飛躍が期待される。

他にも様々な生徒たちが登場し、それらを若手女優の中でも抜群の演技力を誇る伊東蒼など多彩な役者陣が好演。第4話で生徒の一人である頑固親父の長嶺が、約10分も自身の過去を同級生たちの前で語るシーンは、演じるイッセー尾形の迫真の芝居に惹きつけられ、回想シーンを挟まずとも全く飽きさせない名シーンとなっている。さらに、藤竹の同僚教師役の田中哲司、養護教諭役の木村文乃、藤竹の親友でJAXA(宇宙航空研究開発機構)の准教授役の中村蒼など、芸達者な役者陣も脇を固めており、見応えのある群像劇ともなっている。

窪田正孝が「本当に役者を続けていて良かった」と本作に出会えた喜びを心から語る姿も収められた多種多彩な特典映像

6月27日にリリースされるBlu-rayには、特製ブックレット(16P)が封入される他、豊富な特典映像も収録。特典映像は、オリジナルのメイキング&オフショット集&オールアップ集、土スタ『宙わたる教室』特集(2024年10月5日放送/ゲスト:窪田正孝)、主題歌オリジナルMV、「宙わたアルバム」写真スライド集(全10話)、PR集など。

その特典映像では、撮影現場でも理論通りにはいかない実験シーンの難しさが実際の芝居や撮影に活かされてリアリティを生んでいる様子が垣間見えたり、窪田のアイデアで追加された芝居などの撮影秘話が明かされたり、科学部の仲間を演じる役者陣の仲の良さが窺えるオフショットなどが収められている。また、窪田がクランクアップの挨拶で「自分の感情に乗っかってくるような台詞やシーンがたくさんあって、すごく心が動く瞬間がたくさんありました」「終わるのが名残り惜しくなる作品は数少ないけれど、また一ついい経験をさせてもらえて、本当に役者を続けていて良かった」と、心の底からこの作品に出会えた喜びと感謝を伝える姿なども印象深い。さらに、公式HPで公開されていた名場面スチールの写真集「宙わたアルバム」、宣伝用に撮影されたキャスト陣の映像を含む各種PR映像集、本作を大いに盛り上げたLittle Glee Monsterによる主題歌『Break out of your bubble』を名場面で彩ったオリジナルMVなど、多種多彩な特典映像が楽しめる。

研究と実験はトライ&エラーの繰り返しであることが、劇中で度々語られるが、それは人生とも重なる。世代や考えの異なる生徒同士が衝突してしまう第4話では、藤竹が「天体の衝突は時にさまざまな生物の絶滅の原因にもなるが、新しい何かの始まりでもあると語る」など、科学や実験を通して人間を描いていく。自分次第で未来を切り拓くことはできるし、人間の可能性も宇宙のように無限であること、成功したことのない初めての実験には失敗もないなど、挑戦や失敗を恐れず生きていくために背中を押すポジティブで力強いメッセージに溢れ、静かな感動に満ちた大人の青春ドラマの本作。見終わった後には少しだけ宇宙を身近にも感じられることだろう。

 

文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

『宙わたる教室』

●6月27日(金)Blu-ray BOXリリース
Blu-ray詳細情報こちら

●Blu-ray BOX 価格:21,120円(税込)
【ディスク】<4枚組>
<特典映像>

・オリジナル メイキング&オフショット集
・オリジナル オールアップ集
・土スタ『宙わたる教室』特集 ゲスト窪田正孝 2024年10月5日放送 より
・主題歌オリジナルMV・『宙わたアルバム』写真スライド集(全10話)
・PR集

<封入特典>
・特製ブックレット(16P)

●2024年/日本/本編444分/特典114分

●原作:伊与原新 「宙わたる教室」
●脚本:澤井香織
●音楽:jizue
●主題歌:Little Glee Monster『Break out of your bubble』
●演出:吉川久岳(ランプ)、一色隆司(NHKエンタープライズ)、山下和徳
●制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺 悟(NHK)

●出演:窪田正孝
小林虎之介 伊東蒼 ガウ
紺野彩夏 仲野温 阿佐辰美 南出凌嘉 伊礼姫奈 山﨑七海 佐久本宝
中村蒼 木村文乃 田中哲司
朝加真由美 長谷川初範 高島礼子 イッセー尾形 ほか

●発行・発売元:NHKエンタープライズ
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