「イル・ポスティーノ」のストーリー
南イタリアの小さな緑の島。ある日、チリの偉大な詩人で外交官のパブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)が祖国を追放されてイタリアに亡命し、この島に滞在することになった。世界中から届くファンレターを配達するため、青年マリオ(マッシモ・トロイージ)は臨時の配達人として採用された。彼はネルーダの温かみのある人柄に引かれ、2人の間には、いつしか友情が生まれる。ネルーダは美しい砂浜で自作の詩をマリオに聞かせ、穏やかで不思議な感覚を与えた。彼はまた詩の隠喩(メタファー)について語る。そんな時、彼は島の食堂で働く美しい娘、ベアトリーチェ(マリア・グラッツィア・クチノッタ)に心奪われる。ネルーダはチリの同志たちが誕生日のお祝いに送ってきたテープをマリオに聞かせ、自分が議員であった頃、坑夫たちの過酷な現実を知り、その深い悲しみの中から詩が生まれたことを語る。マリオは、ネルーダが現実の妻マチルデ(アンナ・ボナイウィート)に送った詩をベアトリーチェに捧げた。これが彼女の親代わりのローザ叔母(リンダ・モレッティ)の逆鱗に触れ、ネルーダの所に抗議してきた。他人の詩を使うことは感心せんと言うネルーダに、マリオは「詩は書いた人間のものではなく、必要としている人間のものだ」と詩の本質を突き、詩人を唸らせてしまう。やがて、2人は結婚し、ネルーダもマチルダと出席して祝った。追放令が解除され、夫妻は帰国した。心に大きな穴が空いたマリオの元に、詩人から味もそっけもない事務的な手紙が届き、彼の自尊心が傷つけられる。しかし、翌日、再び別荘で詩人が残したテープを再び聞いた時、マリオは悟った。詩人によって人生の目を覚まされた自分の方こそ彼に手紙を書くべきなのだ、と。翌日から彼は、これこそ自分の書くべき詩だと自然の音とそれを歌った詩を録音し始め、彼の心の世界は広がった……。数年後、ネルーダ夫妻が島を訪れた時、そこにはベアトリーチェとマリオの息子パブリートの姿しかなかった。マリオは共産党の大会に参加し、ネルーダに捧げた詩を労働者の前で発表するために大衆の中かき分けて進んだ時、暴動が起きてその混乱の中で命を落としたのだった。ネルーダは海辺に立ち尽くし、亡き友を忍んだ。