「ユリシーズの瞳」のストーリー
アメリカの映画監督A(ハーヴェイ・カイテル)が、故郷のギリシャでの回顧上映と、バルカン半島最初の映画作家マナキス兄弟についての映画を作るために帰国した。彼の作品はギリシャ正教正当派の勢力が強くなっている北部で物議をかもす。デモで騒然とする街で彼はかつての恋人らしき女(マヤ・モルゲンステルン)とすれ違う。彼はマナキス兄弟が未現像のまま遺したという幻の3巻のフィルムを探して旅に出る。まずアルバニアに向かう彼はタクシーに、コリツァに住む妹に42年ぶりに会いに行くという老女(ドーラ・ヴォラキナ)を同乗させた。彼のタクシーはさらに旧ユーゴのマケドニアへ。その小都市モナスティルにはマナキス兄弟の博物館がある。彼はそこで職員らしい女(モルゲンステルン=二役)に、幻の3巻のフィルムのことを尋ねるが、女は答えない。首都スコピエに向かう列車の中で、彼は乗り合わせた彼女に憑かれたようにフィルムのことを語る。激しく求めあう二人。ブルガリア国境。検問を受け、下車した彼に第二次大戦中死刑になりかけたヤナキス兄弟の記憶がとりつく。二人はルーマニアの首都ブカレストに向かう。夢うつつの彼はそこで、生まれ故郷のコスタンザからギリシャに移住するまでの辛酸を舐めた自身の少年時代の回想に入り込み、母や家族と束の間をすごす。コスタンザのホテルで夢から覚めた彼は、港で女に別れを告げる。巨大なレーニン像を乗せた艀でドナウ河を逆上り、彼の旅は続く。新ユーゴ(セルビア共和国)の首都ベオグラードでは旧友の記者ニコス(ヨルゴス・ミハラコプロス)が待っており、養老院にベオグラード映画博物館の元教授に会いに行く。教授は幻の3巻はサラエヴォのイヴォ・レヴィが現像法を研究していたが、戦争の勃発で音信不通になってしまったと語る。サラエヴォの向かう旅で、再び彼は幻想の中に入り込む。彼は第一次大戦のさなか、ブルガリアの農婦(モルゲンステルン=三役)の小舟でエブロス川を下って彼女の家に赴く。戦争で家は焼け、女の夫は殺されていた。女は彼を全裸にして夫の服を着せると、彼と儀式のように交わる。彼は戦火のサラエヴォに着き、映画博物館の館長イヴォ・レヴィ(エルランド・ヨセフソン)に会う。戦争のため完成寸前でフィルムの現像を諦めたというレヴィに、彼は何があっても現像すべきだと言い張り、そのまま疲労で昏睡におちいる。朝、彼はレヴィの娘ナオミ(モルゲンステルン=四役)と会う。レヴィは幻のフィルムの現像に着手、現像は成功した。二人はフィルムが乾く間、霧の日だけ戦闘がやみ、人々が束の間、思い思いに音楽や演劇を楽しむサラエヴォの街に散歩に出掛ける。公園で彼はナオミと踊り、ギリシャ語であたかも懐かしい恋人のように語り合う。ところが川辺を散策中、先に行きすぎたレヴィの家族は兵士に捕えられる。深い霧の中、彼を残して駆けつけたレヴィともども、幼い子供たちまで射殺する銃声が響く。深い悲しみを胸に彼はひとり映画博物館の跡に戻り、レヴィが現像したフィルムを見はじめる。