「潜水服は蝶の夢を見る」のストーリー

病室で意識を取り戻したジャン=ドミニク・ボビー、通称ジャン=ドー(マチュー・アマルリック)は、自分が倒れ、昏睡から目覚めたのだと理解する。しかし自分の言葉が誰にも伝わらず、身体がまったく動かないことに気づく。主治医は、全身が麻痺する「ロックドインシンドローム」であると告げる。唯一動くのは左目だけだった。かつての彼は「ELLE」誌の編集者として華やかな世界で働き、女性関係も忙しく、3人の子供にも恵まれていた。ジャン=ドーは、そのころとは掛け離れた現実を、潜水服に閉じ込められたように感じた。言語療法士のアンリエット(マリー=ジョゼ・クローズ)は、左目を使ったコミュニケーションの手段を発明する。「はい」なら1回、「いいえ」なら2回瞬きをするというものだ。使用頻度の高い順に並べられたアルファベットを読み上げていき、ジャン=ドーが左目で合図する。そうして文章を作ることで、蝶が自由に舞うように、記憶と想像力で自分もどこへでも行けると気づいたジャン=ドーは、生きる気力を取り戻す。ある日、編集者のクロード(アンヌ・コンシニ)が彼を訪ねる。ジャン=ドーは倒れる前に、本を執筆する契約を結んでいた。クロードは日々、ジャン=ドーが左目の瞬きで綴る文章を記録していく。それは彼の半生であり、父の記憶や、恋人ジョゼフィーヌと行ったルルドの記憶だった。ジャン=ドーが過去を旅する間も、父が誕生日に祝いの電話を掛けてくれたり、3人の子供とその母セリーヌ(エマニュエル・セニエ)が病室を訪ねて来たりした。ジャン=ドーは改めて周囲の人々に感謝の気持ちを抱き、その思いも本に綴る。理学療法士マリー(オラツ・ロペス・ヘルメンディア)とのリハビリで首や舌も動かせるようになり、父の日には家族で海に遊びに行くことができた。ジャン=ドーは快復の希望を胸に、執筆を続けるのだった……。