オマールの壁の映画専門家レビュー一覧
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翻訳家
篠儀直子
冒頭で、登場人物のひとりが「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランドの真似をする。世界に不条理は数あれど、パレスチナ問題は最大の不条理のひとつだと思わずにいられないし、この映画がその不条理について考えさせるものであるのは確かだが、その一方、誤解を恐れず言えば本作の枠組みは、実のところ、裏切りと復讐、行き違う不幸な愛に彩られた、正統派ギャング映画なのだ。俳優たちの顔つきとアクション演出に魅力があり、秘密警察に主人公が追われる2度のシーンが素晴らしい。
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ライター
平田裕介
米資本の前作「クーリエ~」が、なにをしたいのかわからぬ失敗作に終わったアサド監督。だが、良い意味でハリウッド的感覚を会得したようで、テーマもメッセージも重いが優れたサスペンスとしても堪能できる仕上がりに。特に市場と路地での警察からの逃亡は異様な緊迫感。ただでさえ壁で囲まれた自治区から出られないのに、秘密警察の奸計、裏切り者だと疑う同胞の視線、親友とのしがらみ、恋人への想いといった他の“壁”が次々と現れ、主人公が袋小路に入る展開も切なく巧みで◎。
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TVプロデューサー
山口剛
「パラダイス・ナウ」で自爆テロに走る若者を描いたハニ・アブ・アサドの新作は再びパレスチナ自治区に生きる若者たちを描く。当然イスラエルに対する報復を胸に抱く若者だが、作者の悲憤は、抵抗組織の壊滅をはかるイスラエルの秘密警察のみならず彼ら自身が属する組織の非人間性にも向けられる。欧米とは異なる宗教や世界観に従って生きる若者たちの行動、恋愛、友情がスリリングに描かれる。市街に聳える巨大な壁、前作同様ぶった切るように終わる結末は象徴的だ。
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