映画専門家レビュー一覧

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    • 映画評論家

      上島春彦

      監禁舞台シチュエーションは秀逸で俳優も頑張っている。だがいろいろ甘い。台詞の内容とリハーサル現場の確執が虚実皮膜で、それを配役変更の繰り返しで表現していく趣向は素晴らしいものの、お客さんがセレブで彼らを納得させるのが目的というのはいただけない。4人の女優それぞれが崖っぷち状態だから、自分が主役をやりたいというバトルのようだが「舞台ってホントに主役じゃないとダメなものかな?」と私は思ってしまった。テーマソング付きのオチは良くできている。

    • ライター、編集

      川口ミリ

      “女優”像が古すぎる。4人が公演を終え、拍手喝采を受けるラストで観客がかける「頑張った!」の一言に、本作の醜悪さが集約されていた。全役のセリフを覚えるとか、憑依型であるとか、どんな理不尽にもめげないとか……、芝居の本質からズレた、献身ばかりを役者の美徳とするような設定にうんざり。ワンシチュエーションゆえ、物語上の謎、カメラワーク、劇伴などに変化をつけて話を引っ張ろうとはしているが、場当たり的なのでさすがに飽きる。4人のキャラもブレブレで困惑した。

    • 映画評論家

      北川れい子

      円形の舞台に集まったのは、キャラもキャリアも異なる女優4人。手にしているのは「アンダースキン」という30ページの台本で、本番は3日後。4役の誰がどの役を演じるかは未定で、全員が4役分の台詞を覚えることに。という台詞がメインのへヴィな下克上劇って、しかもページが激しく移動、さらに台詞と女優たちの私語が混ざり合い、観ているこちらは神経衰弱寸前! けれども本番を迎えたときのリレー演技は全員がつながり、監督、脚本、女優たちの大胆な挑戦にぐったりしつつ乾杯! 

  • ゴーストキラー

    • 評論家

      上野昻志

      映画において、殺し屋という存在は珍しくない。だが、こちらは、タイトル通り、ゴースト、幽霊なのだ。ただ、出没自在な幽霊でも、そのままでは、生身の人間を殺せない。そこで、彼は、自分の薬莢を拾った女子大生に取り憑き、彼女の手を借りて組織への復讐に乗り出す。いささか漫画チックな設定ではあるが、ごく普通に可愛らしい女子大生と、むさ苦しい中年男ふうのゴーストキラーとの組み合わせで見せてしまう。だが、最後の格闘では、ゴーストが肉体を得ているかに見えるのは何故?

    • リモートワーカー型物書き

      キシオカタカシ

      日本アクション界からの「ジョン・ウィック」への返歌が「ベビわる」だったわけだが、本作もその系譜……園村監督の演出はD・リーチよりもC・スタエルスキ的で歯応え十分、画面にも洋画風味が染み込んでいる。心を殺されてきた若い女性と家父長制的規範で雁字搦めにされてきた中年男性の両方が“呪縛”から解放されていく過程を活劇として表現、超常の物語が日本社会の暗い日常と接続している点も印象的。そして髙石あかりの佐藤健的“二心同体”演技に、改めてそのスター性を見た!

    • 翻訳者、映画批評

      篠儀直子

      申し訳ないことに「ベイビーわるきゅーれ」を観ていないので、「いまさらそこに感心する?」みたいなことを書いていたらご容赦いただきたいのだが、三元雅芸を筆頭にアクションが素晴らしく、しかも、美しいアクションを連続した動きとして全部見せようという意思が撮影と編集にみなぎる。それだけでなく人物に魅力があるのも美点。髙石あかりと三元のコンビが面白く、ふたりの人間が出会うことによって生じるそれぞれの変化を描くという、ドラマの基本が手堅く押さえられているのが地味にいい。

  • A LEGEND/伝説

    • 映画評論家

      鬼塚大輔

      「ライド・オン」では実年齢に(ほとんど)相応しい、しみじみ演技を披露したジャッキーだが、この作品の大半を占める古代パートではCGIでツヤツヤピカピカのご尊顔を披露(実際の若き日よりもイケメンなのはご愛嬌)。でもってこの古代パートは清々しいまでの国威発揚映画なので、「ゲッベルス」を観たばかりなこともあり、うんざりしつつも、逆に興味深かったりもした。ラストの20分ほどが、これが観たかったんだよ!のジャッキー映画で、この部分に★一つサービス。

    • ライター、翻訳家

      野中モモ

      ジャッキー・チェンが考古学教授を演じるシリーズの3作目。夢の中で前漢の武将になって戦ったり若い人に慕われたりするのだけれど、いくら大スターでも今それはキモいよ!と引いてしまう描写が散見。「HERE 時を超えて」のトム・ハンクスのAIによる若返りがそんなに嫌じゃなかったのは横にロビン・ライトもいたからだったんだな……と気づかされる。新疆ウイグル自治区の大草原でのロケも中国政府による少数民族への弾圧の問題はどうなっているのか気になってしまって心がざらつく。

    • SF・文芸評論家

      藤田直哉

      スタンリー・トンとジャッキー・チェンが組んだ作品らしい、ユーモアとインチキくささが融合した作品。風景の美しさはゲームっぽく、恋愛や合戦はテレビドラマ的なチープさだが、メタフィクションの構造で表現に組み込んでいるのは美質。このチープさとアイロニーと、ガチなロマンとのバランスが現代人の心を打ち、前二作もヒットしたのだろうと思う。八〇年代やゼロ年代の日本を思い起こさせ、現象としては興味深いが、残念ながら評者には波長が合わなかった。

  • ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男

    • 映画評論家

      鬼塚大輔

      具体的に見せない、を徹底することで、ナチスの悪(だけではないが)を鮮烈に表現した「関心領域」とは対照的に、ドラマ、記録映像、プロパガンダ映画の一部、説明的字幕、などをこれでもかと駆使して独裁、それを支えるプロパガンダの恐ろしさを訴える。そのプロパガンダに嬉々として乗っかっていく民衆の姿の方こそ、今は描くべきだと思えてしまうし、ドラマ部分の安っぽさが目立つものの、それでもネット時代の今だからこそ、観ておくべき作品なのは間違いない。

    • ライター、翻訳家

      野中モモ

      俳優がゲッベルスやヒトラーを演じるドラマとナチス・ドイツの時代に実際に撮影された映像を組み合わせて世論を操作するプロパガンダの舞台裏を描くのだが、とにかく後者が強烈すぎる。「ショッキングな場面も含まれております」と警告されていてもやはりしんどい。マイノリティを「他者」と定めて悪魔化し排除しようとする残虐な動きは今日のドイツでもアメリカでもパレスチナでも日本でも現在進行形だから自分も含め人類が愚かで吐きそう。生きていてごめんなさいという気持ちに。

    • SF・文芸評論家

      藤田直哉

      ナチスドイツの宣伝を担当した男を、史実や資料に基づいて再現。メディア統制や映画やラジオを用い、現実を歪め認識できなくさせたことが、いかにドイツを破滅に導いたかを描く。極悪人ではなく、卑小ですらある人間として彼らを描くことで、現在起きている類似の事象との繋がりを生々しく感じさせることに成功している。フェイクニュース・デマによるファシズム的な現状に対する批判意識は極めて明瞭。惜しいのは、映画全体を貫くドラマ的な醍醐味が薄いこと。

  • プロフェッショナル(2024)

    • 映画評論家

      鬼塚大輔

      「マークスマン」を観て、構図感覚の素晴らしさに驚愕していたので、ロバート・ロレンツ監督とリーアム・ニーソンの再タッグ作には期待していたのだが、軽々と期待を超えてきた。アイルランドの自然を美しく捉え、テロリストが登場して、内容的には西部劇。こりゃジョン・フォードに並んだね!と言っても過言ではある、もちろん。とは言え、いつものリーソン無双を期待するとがっかりするかもだが、いつものリーソン無双かあ、と思って見逃すのは惜しい大快作なのは間違いない。

    • ライター、翻訳家

      野中モモ

      これは眉間に深い皺が刻まれたリーアム・ニーソンと「心優しき殺し屋」というファンタジーがもともと好きかどうかが評価に直結しそう。普段あまりすすんで観ないジャンルだが、寂寥とした美しさをたたえたアイルランドの田舎の風景(時代設定は70年代前半)と主人公の友だちの老警官を演じるキアラン・ハインズの愛嬌の滲む顔が良かった。邦題と宣伝ヴィジュアルから静かで渋い質感が全然伝わらなくてもったいない気もする。「聖者と罪人たちの国で」(原題直訳)でいいのでは?

    • SF・文芸評論家

      藤田直哉

      穏やかに丁寧に作られた一作で、アクション映画であると同時に宗教的な映画である。孤独と友人、贖罪と利他性などの精神性が主題となっており、脚本や主題や演技などが綺麗に収束する見事な作品。「男性性」が主題になっているのだと言ってもいいだろう。他者と関係を持つことの価値についての寓話だと言ってもいい。アイルランドの広大な自然の中で生きる人々を丁寧に描いているからこその説得力である。評者は本作にじんわりと感動してしまった。

  • サイレントナイト(2022)

    • 映画評論家/番組等の構成・演出

      荻野洋一

      まず紹介文だけ読んで、チャールズ・ブロンソン時代ならともかく、今さらながらにマッチョかつアナクロな復讐譚が始まるのかと気が滅入ったが、いざ始まってみると画面内にクレッシェンドで異様な緊張感が充?されてくる。ジョン・ウーは腐ってもジョン・ウーだ。冒頭の抗争で主人公から声帯を奪い、むだな自己吐露の猶予を?奪した上で、すべてを喪失した復讐者の生き様を一挙手一投足のみで潔くすくい取っていく。ロッテントマトでの低評価なんぞに惑わされてはならない。

    • アダルトビデオ監督

      二村ヒトシ

      男のロマンに興味ないので見当違いな文句を書きますが、セリフなきバトルを撮るためだけに主人公を?者にしちゃったね。敵がヤク中とか、助けに来るのが真面目な黒人とか、復讐の動機が家族愛とか古すぎるよ。俺だったら、声を奪われた主人公は孤独な非モテだが好きだった不美人が殺されて立ちあがるひ弱な黒人、悪の黒幕は健康で卑劣で屈強な各人種の美女の合議制組織、手下はトランプとバイデンとプーチンと習近平に似せた老人の愚連隊にする。それでこれと同じアクションやったら星5。

    • 著述家、プロデューサー

      湯山玲子

      これぞ、ジョン・ウー歌舞伎。クリスマスの惨劇、主人公が声を失う設定、要所に響く聖歌、華麗な銃撃戦の数々に、ギャングの親玉のタトゥーと悪相はもはや実悪、仁木弾正!  最も共感を得られる復讐とは「理不尽に我が子を殺された親」のそれだが、加害者側の事情等は一切ナシ。正義と悪との対立項を様式美にて描き、目には目をのハムラビ法典にまで遡る人間の復讐力の凄まじさが現出。言語という近代的理性を立ち入れさせないための沈黙劇。でもって、やっぱ歌舞伎だ!

  • ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今

    • 映画評論家/番組等の構成・演出

      荻野洋一

      今月は偶然にも「ベター・マン」と並び、ファンベースに立脚したイギリス物2つ。ブリジットという登場人物じたいが、かつてのイーリングコメディに匹敵するジャンル性を帯びる。本国では反フェミニズムとの批判もなくはないそうだが、ケン・ローチ、マイク・リーあたりとはおよそ遠く隔たったイギリス中流向け喜劇としては健在だ。SF的無時間に居座った寅さんとは異なり、50代を迎えたブリジットが年下男性とのロマンスで自虐を連発するこのコンサバな喜劇性は、いつまで持続できるだろうか。

    • アダルトビデオ監督

      二村ヒトシ

      過去のブリジット・ジョーンズ・シリーズを一本も観たことなかったので大丈夫かしらと心配したけど大丈夫でした。もしかしてガンダム知らない勢がジークアクスで最初のガンダムの登場人物が出てくるのに面白く観れちゃったのと同じ現象が起きたのかな(たぶんちがうな)。ADHD母さんの恋なんて応援せざるをえないし、目尻に皺が刻まれた中年女性がセックスするのは美しいです。もうじき死にそうな登場人物が「ただ生きるな。楽しんで生きろ」と遺言してたが、ほんとうにそのとおりだよ。

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