タレンタイム 優しい歌の映画専門家レビュー一覧

タレンタイム 優しい歌

2009年に亡くなったマレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの遺作を、製作から8年を経て劇場公開。ピアノの上手な女子学生、二胡を演奏する優等生など高校生たちが、宗教や民族の違いによる葛藤を抱えながら、音楽コンクール“タレンタイム”を目指す。ドビュッシーの『月の光』、バッハの『ゴールドベルク変奏曲』などのクラシックに加え、マレーシアの人気アーティスト、ピート・テオが作曲したオリジナル曲など、多彩な音楽が物語を彩る。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    アジア映画史に名を刻むべき青春映画の傑作である。アフマド特集などで何度か上映されてきたが、今回の単品公開によって本作の価値が改めて強調されるだろう。高校の文化祭準備という似た設定の「リンダ リンダ リンダ」では韓国人留学生の異質性が作品の肝となったが、本作もマレー系、インド系、中華系という3民族の民族感情がデリケートにからんで、そのさざ波が美しい織物と化す。各人各様の秘めた心情が、量ったような等分で歌い継がれる。故アフマドの大きな度量の演出。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    高校生音楽コンクールが題材。多少センチメンタルだけど、ほどほど良く出来た作品。というのが最初の感想。が、マレーシアの状況を考慮して振り返れば、これがなかなか練り抜かれたお話だったと感心。かの国はマレー系、中国系、インド系など多民族。宗教も入り乱れ、そこに国民間で対立あり偏見ありと混沌。それを踏まえての音楽コンペであり、恋愛、友情だったのだ、と。この監督(故人)、娯楽の衣をまとって、重い自国の現実を描き、しかもその先に希望を込めた。凄く知的な映画だ。

  • 映画ライター

    中西愛子

    多民族国家マレーシア。ある高校で、芸能の才能を発掘するコンテスト“タレンタイム”が行われる。ここに参加する4人の高校生とその家族の風景おのおのをスケッチ風に描き、優しく織り上げていく。言語や民族や宗教も異なる、多様な人々が共存している。隣り合わせに愛があり憎しみがあり、幸せがあり不幸がある。小さな日常に寄り添う、みずみずしい大きな世界観に心安らぐ。8年前に本作を撮り急逝した女性監督ヤスミン・アフマド。亡き彼女のまなざしは今も多くを語っている。

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