疑惑のチャンピオンの映画専門家レビュー一覧
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
申し訳ないのだが、ツール・ド・フランスには興味がない。なのでランス・アームストロングのことも全然知らなかった。そんな自分がこの映画を評するのにふさわしいとは思えないが、ベン・フォスターが非常に好演していることくらいはわかる。実話が元になった映画も最近多いが、映画としてのリアルさが文字通りリアルな話であることによって保証されているのだとしたら、それはアカンのではなかろうか。だが監督フリアーズは、きっちりとした人間ドラマとして丁寧に描いているとは思う。
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映画系文筆業
奈々村久生
史実のスキャンダルを過不足なく紹介したという感じ。それ以上でもそれ以下でもなく、ある意味ドキュメンタリーよりドキュメンタリーらしい。ドーピングは本質的にスキャンダラスな要素を含む行為だが、体内に注入するという形や隠匿するべきものという性質から、あまりビジュアル化に向いているとは言い難い。ゆえに一番のハイライトは、抜き打ちチェックに際して規定の数値をクリアすべく、まさにチームが「一丸となって」、体に入れた禁止薬物を「出す」ところなのである。
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TVプロデューサー
山口剛
ツール・ド・フランスのチャンピオンのドーピング疑惑を描いたドラマだが、フリアーズ監督は登場人物の心理描写を徹底的に排除し行動と科白を中心に外面描写で描いていくというかなり実験的な方法をとっている。彼が薬物に手を染めた動機も彼の倫理感も描かれないし、新聞記者の目的も社会正義か功名心か判然としない。従って、感情移入する人物はいないが、監督が選んだこの手法はまさにハードボイルド。ダシール・ハメットの小説を読むようなストイックな緊張感を感じさせる。
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