海よりもまだ深くの映画専門家レビュー一覧

海よりもまだ深く

「海街diary」の是枝裕和監督が、「歩いても 歩いても」「奇跡」に続き阿部寛とタッグを組んで綴る家族の物語。いつまでも大人になりきれない男とその母、元嫁と息子が、母が独り暮らしをする団地で偶然一晩過ごすことになり……。出演は、「あん」の樹木希林、「脳内ポイズンベリー」の真木よう子。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    事件を起こしたカルト教団の跡地巡りや、感情を持ったダッチワイフ、取り替え子の再交換といった意表をつく設定を仮構し、そこから赤裸々なリアリズムを抽出するというのが、これまでの是枝監督のやり方だった。しかし「海街diary」と並行して撮影された本作では、崩壊家庭が過ごす台風一夜という、平々凡々たる物語を選んだことで、是枝演出がよりくっきりと現れた佳篇に仕上がった。身につまされる脚本と演者の好演が光るが、阿部寛と元妻の彼氏(小澤征悦)の対比が類型に留まる。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    家族の再生を夢見る男。そうはいかぬと諭し、拒む女たち。だけど、家族はばらばらでも有りじゃんの結末が沁みる。樹木希林と阿部寛のやりとりが絶妙。ただ全体、ちと主人公を甘やかしの感もあって。興信所の後輩の池松壮亮が阿部に優しいのはなぜ? 「あなたに救われた」という台詞はあっても、その内実は不明。この池松に、息子の未来の姿を暗示させたのか。といった齟齬はあるが、是枝作品の中では一番納得のいく出来で、これまで彼が描いてきたものが、ここで結実したような印象が。

  • 映画ライター

    中西愛子

    是枝裕和作品で、樹木希林と阿部寛の親子共演といえば、「歩いても歩いても」を思い出すが、本作はその変奏曲のようでいて、そこからさらに視点を広げ、家族と人生というテーマを掘り下げている。監督自身が19年間住んでいた団地がメインの舞台ゆえか、作品のタッチは力みなく軽やか。そんな清涼感の中に、登場人物たちの俗や欲や夢が浮かび不穏さもたなびく。人が心の水面下に抱える底なしの深さをふいに感じさせる演出も絶品。息子として父として夫としての監督の観察眼が光る。

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