FAKE(フェイク)の映画専門家レビュー一覧

FAKE(フェイク)

オウム真理教の内部に迫った「A」「A2」の森達也監督が、共作「311」を経て15年振りに撮ったドキュメンタリー。ゴーストライター騒動で話題になった佐村河内守氏の自宅で取材しその素顔を追いながら、社会に瀰漫する時代の病をあぶり出す。撮影は、「海よりもまだ深く」の山崎裕。
  • 評論家

    上野昻志

    久々の森達也らしい力のこもったドキュメンタリーだ。一時話題になった「事件」は伝聞程度には知っていたが、それ以上の関心はなかった。この映画の面白さも、そこにはない。あくまでも人間なのだ。佐村河内守という人物、森の問いかけに対して、沈黙するその顔。そこには、紛れもなく現代という虚飾に満ちた時代を生きる人間の顔がある。そして、その脇で手話通訳をするかおりさんという妻、そして猫。それを反照する新垣隆なる人物の今風な軽さ、これぞまさに現代の人間喜劇である。

  • 映画評論家

    上島春彦

    映画の後、通路で「やっぱり一番卑劣なのは新垣さんだわ」と怒っているおばちゃん達がいた。が、これは誰が卑劣で、何としても制裁を加えてやらなきゃ気がすまない、という映画ではない。むしろそういう無知に警鐘を鳴らす意図であろう。それにしてもマスコミはこの佐村河内問題でも、彼を引きずり出して謝らせるばかりで彼の言葉を色眼鏡なしで発信する役目を放棄してしまった。この一件あたりからだろうか、週刊文春が正義の味方気取りで暴走を始めたのは。色々考えさせられる。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    絶対悪を前にした思考停止に〈悪〉とされる側からカメラを向けることで風景を一変させるのはこれまでと同手法ながら、小保方、ベッキーに通じる時代の空気を反映。鋭く佐村河内の矛盾を突く米国人記者に比べ「全てを笑い飛ばす」だけの日本のマスコミに毒された観客に森は判断を迫る。遮光された部屋、ケーキ、ベランダの喫煙、消火器事件など映画らしさに満ちたディテールを積み重ね、ひっそりと暮らす夫婦の愛の物語へと昇華させる。こんな魅力的な玉虫色映画があったろうか。

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