あなた、その川を渡らないでの映画専門家レビュー一覧
あなた、その川を渡らないで
韓国・江原道横城郡の古時里という小さな村に暮らす一組の老夫婦に15ヶ月間に渡って密着したドキュメンタリー。仲睦まじい日常生活と美しい四季の様子をカメラに収め、韓国では480万人の動員を達成。ロサンゼルス映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞受賞。また、モスクワ国際映画祭ほか多くの映画祭で観客賞に選ばれた。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
今春公開の日本映画「ふたりの桃源郷」と対をなすような、田舎の老夫婦の仲睦まじい晩年を綴った韓国製ドキュメンタリーで、夫が先立つという展開も酷似する。実在の老夫婦が被写体であり、九〇歳過ぎまで男女の愛情が持続するということが衝撃的だ。現代社会は愛の不毛、家庭の崩壊、生の孤立に充ち満ちている。だから本作で、実在の老夫婦が楽しそうに雪合戦する姿などは、メルヘンに見えてしまう。本作の幸福描写は、私たち現代人の不幸と孤独を逆照射しているのである。
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脚本家
北里宇一郎
田舎生活をする老夫婦のドキュメントなんて、この前「ふたりの桃源郷」を観たばかりで。韓国版のこちらは出だしの部分、監督が劇映画的カット割りにこだわったのか、夫婦を演出した気配があってぎこちない。が、しだいにありのままを撮っていこうという姿勢が見え、それとともに二人の自然な振る舞いが魅力になってくる。子どもたち(といっても中高年)が親の世話をめぐって本気の喧嘩をするところが韓国らしい。終盤、悲しみをこれでもかと情感に訴えるのが、どうも肌に合わなくて。
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映画ライター
中西愛子
98歳の夫と89歳の妻の愛。フィクションのように滑らかに日常の物語が進むが、これはドキュメンタリーなのだという。もちろん、おじいさんとおばあさんのささやかなやりとりは自然で、丁寧に日々が切り取られていく。お互いを思いやるその姿は微笑ましく、夫婦愛のかたちとしてなんて素敵だろうと思う。おばあさんの笑顔が本当にいいなぁ。やがて、おじいさんが病に伏し、亡くなるまでが淡々と綴られる。てらいなく、四季を通して人の営みや幸せが映し出されていて心に沁みる。
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