愚行録の映画専門家レビュー一覧
愚行録
ポーランド国立映画大学で学び、本作で長編監督デビューを飾る石川慶が、貫井徳郎の直木賞候補作を映画化したミステリー。1年前に起きた一家惨殺事件の真相を追う週刊誌記者が、理想の家族とされた被害者一家の評判とはかけ離れた実像を目の当たりにする。出演者には「怒り」の妻夫木聡、「駆込み女と駆出し男」の満島ひかり、「十字架」の小出恵介ら実力派の俳優たちが顔を揃えている。
-
評論家
上野昻志
妻夫木聡演じる週刊誌記者による、未解決の一家殺害事件の聞き取りに登場する関係者それぞれの像が、よく描かれている。つまり焦点は、殺された夫婦に当てられているのだが、それを語る関係者の思惑が同時に明らかになるのだ。だから、観客は、見るほどに謎を深めていくのだが、この作劇はなかなかなものだ。それはともかく、精神分析を受けている場での満島ひかりの、ほとんど無垢にも見える表情での語りは素晴らしい。対して妻夫木は、訳ありとはいえ最初から表情が暗すぎる。
-
映画評論家
上島春彦
原作はインタビュアーが前面に出てこない分、謎の要素が多くもやもや。そこがいいのだが。映画はジャーナリストが未解決の殺人事件を追う物語をはっきりさせている。冒頭のつかみは日活の青春映画に似た趣向があるものの、こっちの方が底意地が悪い。出てくる人誰もが誰かを陥れたり、おとしめたりという連続でいかにも「ひっかけ所」満載ミステリーを最初からやってると分かる。結構無茶な展開が待っていて、それが愚行の意味。とはいえ妹に対して愚かじゃない兄貴なんていないか。
-
映画評論家
モルモット吉田
「怒り」でもモデルになった世田谷一家殺害事件だが、映画としてはこちらが上。事件後、周辺が空き地となって荒れた不穏な雰囲気もよく出ている。育児放棄で拘置された妹を抱える記者が事件を追う過程で明かされるスクールカーストを虚仮威しの演出ではなく、それぞれが日常を営む上で自然に身に着けた鎧として描いているので臭くならない。脚本の完成度は高いが全篇にわたる生硬な演出は功罪相半ば。終盤は演出も転調が必要だったのでは。小出恵介のナチュラルな人でなし感が絶品。
1 -
3件表示/全3件