淵に立つの映画専門家レビュー一覧

淵に立つ

第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した、深田晃司監督の人間ドラマ。下町で金属加工業を営む夫婦のもとに風変わりな一人の男が現れ、共同生活が始まるが、やがて平凡で幸せな家庭を築いてきたかに思われた夫婦の秘密が徐々に暴かれてゆく。出演は「岸辺の旅」の浅野忠信、「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」の古舘寛治、「かぐらめ」の筒井真理子、「壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ」の太賀、「ローリング」の三浦貴大、「ニシノユキヒコの恋と冒険」の篠川桃音。
  • 評論家

    上野昻志

    一見、平凡な家庭に異物が入ってきたことで、それまで抑え込まれていた家族の裸形が露呈していくという構図は、深田自身の「歓待」以前に、「テオレマ」のような見事な例があるが、本作の見所は、そのような関係図を生きる俳優の演技にあるだろう。とりわけ、妻の章江役の筒井真理子に。存在において異人ぶりを発揮する浅野忠信と、演技を殺す技でみせる古舘寬治の二人を相手に、彼女は、妻=女としての微妙な変化から、決定的な変化に到る振幅を見事に表現している。

  • 映画評論家

    上島春彦

    これまでの監督の作風から「テオレマ」的な物語を予想したのだが違っており、もっと怖い。この怖さは訪問者の存在が形而上的な謎ではなく、むしろ身に覚えのある訪問だったせいだ。夫が彼を歓待したのは寛大さからではなく、実は卑屈さ故であり、その感じを出すのに訪問者浅野と古い友人古舘というコンビはうってつけ。とはいえ浅野の役柄の振れ幅の大きさはそれ自体謎。よくよく考えると彼は何を思い一家を訪ねたのか結局分からないまま時間がぽーんと飛ぶ。この展開も素晴らしい。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    平凡な家庭に侵入した異物が夫婦の内面を露わにする。古舘と筒井の夫婦が素晴らしいが、円熟を増した浅野が闖入することで時として演劇的な言語が占める空間を、映画言語でかき乱してくれる。印象的な背中越しの移動ショット、オルガン、歌、浅野の寝る時まで同じ端正な服装など、終始画面に緊張と異物感を漂わす演出に瞠目。筒井が主演女優賞級の演技。8年後の後半は破れ目が用意され、口当たり良く終わらせまいとする足掻きが魅力となるが食い足りなさも残る。あと1時間あれば。

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