哭声/コクソンの映画専門家レビュー一覧
哭声/コクソン
「哀しき獣」のナ・ホンジン監督のサスペンス・スリラー。平和な田舎の村に、得体の知れないよそ者がやって来る。男について謎めいた噂が広がるにつれ、村人が自身の家族を残虐に殺害する事件が多発していく。そしてその殺人犯には共通する特徴があった……。出演は、「朝鮮魔術師」のクァク・ドウォン、「ベテラン」のファン・ジョンミン、「シン・ゴジラ」の國村隼、「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」のチョン・ウヒ。第69回カンヌ国際映画祭コンペ外上映作品。第37回青龍賞にて國村が男優助演賞、人気スター賞を受賞。
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翻訳家
篠儀直子
日本語通訳を務める若者が、神の言葉を媒介する存在(教会の助祭)でもあることや、画面や挿話に現われるいくつかのシンボリズムからして、これはキリスト教的な意味での「信じること」と「疑うこと」についての物語でもある。それをアジア的視点で論じた映画と言うべきか。撮影と編集が驚くべき的確さ。謎の男に、ほかのどの日本人俳優でもなく國村隼をキャスティングしたのが大正解。いつにもましてハンサムなファン・ジョンミンが、祈祷師をスタイリッシュに演じるのも見どころ。
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映画監督
内藤誠
祈祷師が活躍する韓国映画に國村隼の日本人が参入し、彼の居住する乱雑な部屋の飾りつけとともに人物像は最後まで謎のままながら、土着的な存在自体が怖い。洋泉社の新刊『ゾンビ論』を読後に見たせいか、ゾンビの始原の地ハイチとヴードゥーの呪術を巧みに韓国の過疎地に移しかえていると思った。「エクソシスト」など、他の映画からの引用はあるものの、2時間半をもたせるのは、撮影の細部がいいせいだろう。村に住み着いた日本人というだけで、怪しい人物とは、庶民感情の反映か。
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ライター
平田裕介
よそ者、毒キノコ、謎の病、呪術に翻弄され、混乱していく町の者たちと観ている者をシンクロさせる『羅生門』的構成が実に巧み。かといって玉虫色のままで終わらせず、憤怒や恐怖に駆られて闇雲に敵を見出し、それを排除する間に真の敵が跋扈するという、いつの世にも絶えぬ悪しき摂理を明確に打ち出す。たしかに前二作とは違ったスタイルではあるが、ナ・ホンジンならではの“追いつ追われつ”なシーンはしっかりと用意、吹き出す血の量も色味の赤黒配合量もアップしている。
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