あゝ、荒野 前篇の映画専門家レビュー一覧

あゝ、荒野 前篇

寺山修司が唯一残した長編小説を菅田将暉とヤン・イクチュンのダブル主演で映画化した二部作前編。2021年の新宿。兄貴分を半身不随にした裕二に復讐を誓う新次と、吃音と対人恐怖症に悩む健二は、“片目”こと堀口に誘われ、ボクシングを始めるが……。共演は「ひとまずすすめ」の木下あかり、「探検隊の栄光」のユースケ・サンタマリア。監督は「二重生活」の岸善幸。2017年第91回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞(菅田将暉)、助演男優賞(ヤン・イクチュン)。
  • 評論家

    上野昻志

    寺山修司の新宿には都電が走っていた。2丁目にはヌードスタジオがあり、歌舞伎町には、ヤクザも避ける愚連隊がいた。そして、それぞれの区画には見えない結界があった。いまじゃ、それらはすべて消え去り、新宿はフラットな街になった。3・11以後とはいえ、平板な街に荒野の風を吹かせるのは難しい。結果、ひょんなことでボクサーになる菅田将暉の新宿新次と、ヤン・イクチュンのバリカン建二の肉体を際立てるしかなかったということだ。その先は、後篇のお楽しみ。

  • 映画評論家

    上島春彦

    長さに怯んでしまい、見るのが遅れた。申し訳ない。これは長くて正解。二人のボクサーの日常を反映するリングネームの「まんま」感が映画世界を上手く構築し、次のオリンピック後の新宿がほとんど六〇年代、というのも可笑しい。寺山修司原作ですから。でもちゃんとテロとかはある、さすが二十一世紀。ここ数年でドローン映画、とでもいうべき作品が急増したが、これはその監視的性格がきちんと内容に組み込まれ前篇のハイライトになった。これには寺山さんもビックリでしょうな。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    原作からしてネルソン・オルグレンの『朝はもう来ない』の影響下にあり、寺山の監督作「ボクサー」にまで繋がっているだけに、今、映画にするなら解体と再構築が不可欠の原作に対し、五輪後の2021年の新宿を舞台にするアイデアが秀逸。テロとデモが渦巻き、現在の社会が抱える問題がいっそう拡大する時代は原作の60年代に拮抗する状況を生み出している。菅田、ヤンの攻めと受けの対照的な演技の配置も良く、振り込め詐欺、自殺中継など違和感なく馴染ませているのも好感触。

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