エルネストの映画専門家レビュー一覧

エルネスト

「湯を沸かすほどの熱い愛」のオダギリジョーが「団地」の阪本順治監督と3度目のタッグを組む伝記ドラマ。キューバ革命戦士チェ・ゲバラの部隊に帯同、ボリビアの軍事政権との戦いで1967年8月に25歳の若さで散った実在の日系人、フレディ前村の生涯を追う。共演は「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」の永山絢斗、キューバ人俳優で写真家でもあるホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、「ゾンビ革命 フアン・オブ・ザ・デッド」のアレクシス・ディアス・デ・ビジェガス。音楽は「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」の安川午朗。
  • 映画評論家

    北川れい子

    冒頭にチェ・ゲバラの静かで力強いことばが字幕で映し出される。そしてこの青春映画も静かで力強い。やがて自分の未来をゲバラに託すことになる日系医学生のまっすぐな若さ。そういえばメッセージや衝突もホンのチラッとある程度、それでも主人公の思いは伝わってきて、あえて言えば達成感もある。阪本監督は「団地」でも、周囲の雑音をよそに宇宙人と静かに交流する夫婦の日常を描いていたが、主人公の感受性を軸にした今回も、徒に慌てず騒がず、それが映画の風格になっている。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    ゲバラの訪日には工業化状況の視察などいかにも普通な目的があったのだろうが、彼がいまだ革命家であることを感じさせるのは広島訪問と原爆資料館見学、原爆慰霊碑への献花だ。これを取り上げ、なぜ日本人はアメリカに対して怒らないのか、という、ゲバラの問いと、彼の思い描く戦線に日本人も誘われていたことを描き、ボリビアの日系ゲリラの存在を伝え、それを現在の対米追従への疑義にまでつなげようかという本作はソダーバーグの生真面目さを軽く凌駕する見甲斐ある映画だ。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    異国の地キューバで医学の道を目指すフレディ前村と、映画製作を遂行する監督・主演男優の姿が否応無く重なる本作。冒頭、ゲバラの〈目〉を通して日本を考えさせる場面。ゲバラの〈目〉はバックミラーなどに何度も映し出され、その度に彼の想う“何か”を考えさせる効果を生んでいる。同様に、革命の仲間たちの〈目〉を通して見たものを、彼らの視点=目の高さで描いていることも窺える。例えばそれは、座る、寝転ぶ、という動作においてカメラが目の高さに移動することが裏付ける。

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