灼熱の映画専門家レビュー一覧

灼熱

クロアチア紛争が勃発した1991年を皮切りに紛争終結後の2001年、そして現代の2011年という3つの時代の異なるエピソードを同じ俳優たちが演じるヒューマンドラマ。戦争が人々に残した深い傷とその再生を、3組の男女の禁じられた愛の物語を通じてみつめてゆく。監督・脚本は、クロアチア出身のダリボル・マタニッチ。第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞。第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にて「灼熱の太陽」のタイトルで上映。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    セルビア人女性とクロアチア人男性が被る民族対立の苦悩を、3つの時代、3組のカップルで重層的に描き分け、ミクロから普遍的な博愛へと敷衍していく緻密かつ鷹揚なる製作姿勢に好感を持つ。また手持ちのぐらぐらカメラは、かつての「ドグマ」勢の方法論先行から脱し、人間と土地の調和さえ生み出した。ただ、かつては共産圏映画には独特の色と匂いがあったものだが、もはやロシア・東欧の映画も、西欧の「作家映画」と同質の美学体系に組み込まれた感がある。寂しさを禁じ得ない。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    クロアチア紛争を背景にした3つのラブ・ストーリー。第1話はもろロミ・ジュリ風の素朴さ。第3話は現代の彼の地の若者たちの生態が興味深いが、中身はシンプルな愛の復活話。紛争終結直後の男女を描いた第2話がいちばん印象的で、互いに惹かれあっていても、敵味方の感情が邪魔して、なかなか結ばれない。その二人の気持ちが繊細に描かれるアドリア海が解放の場として捉えられ、海水浴の映像が官能的な魅力を。これ、クロアチア人監督のセルビア人に対する贖罪の映画だと思ったが。

  • 映画ライター

    中西愛子

    1991年、2001年、2011年。クロアチア人とセルビア人の民族紛争の勃発を皮切りに、3つの時代を舞台にした、3組の若者の愛の物語を描く。面白いのは、どの時代のエピソードも、同じ男優女優がカップルを演じていること。設定は違うし、まったく別人に扮しているのだが、何かがリンクしていて、時代を追うごとに男女の関係性が深まっていくかのよう。さらにその男女の愛憎は、2つの民族の愛憎の擬人化とも見えて重層的。灼熱のような愛と官能描写の訴えかける力が凄い。

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