トトとふたりの姉の映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
ルーマニアのロマ(ジプシー)社会にカメラが入った稀有なドキュメンタリーだ。彼らは、水道もガスも止まった共産主義時代の廃墟アパートを不法占拠して暮らし、ドラッグにはまっている。写っているのはまさにこの世の地獄だが、カメラの視線は子どもたちの目の高さにある。つまり、これを悲惨と名づける私たちよそ者の視線ではないのだ。彼らは地獄で暮らし、また地獄に慣れている。しかし、そんな彼らが別の生き方をしたいという意志を持つ過程にじっと目を向け続けている。
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脚本家
北里宇一郎
子どもを蔑ろにして生きた母親が、最後は子どもたちに必要とされなくなる。それだけ彼らは成長したわけだ。その軌跡がじっくり撮影されて。キャメラの前で平然とドラッグを吸う男たち。そのヤケッパチの荒んだ環境。そこからトトと次姉は抜け出した。その契機がヒップホップであり、デジカメというところに今が匂って。特にレンズに向かって自問自答する次姉、その表情が切なく健気で胸を打つ。特殊な社会状況下の青春ドキュメントと見せて、普遍の自立と出発を浮かび上がらせた秀作。
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映画ライター
中西愛子
10歳の少年トトと2人の姉。父は不明、母は麻薬売買で服役中の姉弟たちが、ドラッグがすぐそばにあるボロアパートでの生活から何とか身を立て直そうと格闘する。ルーマニアのロマ家族を映し出したドキュメンタリー。まるでフィクションのような近さでカメラは彼らをとらえていて驚く。運、あるいは心の強さが隔てた、この家族それぞれが辿る人生の明暗を監督が妙に冷静に見つめているから、一層ドラマを見ているよう。親の負を断ち切ること。このメッセージはシビアなほど明快だ。
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