マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白の映画専門家レビュー一覧
マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白
北朝鮮で生まれ、韓国へ渡った脱北ブローカーの女性の壮絶な生き様を記録したドキュメンタリー。出稼ぎと偽って中国の貧しい農村に嫁として売られた女性Bは、生き抜くために脱北ブローカーとなり、北朝鮮に残してきた息子たちを脱北させ、韓国へ渡る……。カンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品されたほか、モスクワ国際映画祭、チューリッヒ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した注目作。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
中国へ出稼ぎに出た北朝鮮の主婦が人身売買されるドキュメントで、売買先の中国農村の夫のことが好きになるというメロドラマ的展開を見せる。中国で新家庭を築くプランはもろくも崩壊。亡命先の韓国で北朝鮮時代の前夫、息子たちとの4人暮らしとなった彼女は、前夫のいる前でこれ見よがしに中国の夫とスカイプでしゃべる。前夫は表情ひとつ変えない。ぞっとするシーンだ。彼女は家庭にまで分断を持ちこんでしまった。余計なナレーションを排して当事者の声だけに耳を傾ける。
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脚本家
北里宇一郎
またしても北朝鮮ものかと思う。だけどこれは題材が異色で。中国人に売られた既婚の朝鮮人女性がいて、彼の地でも夫婦生活を送っている。彼女は脱北ブローカーで稼ぎ、それを生かして息子二人と元の夫を韓国に逃亡させる。もちろん自分も一緒。もうドラマも顔負けの展開で、あれよあれよと見つめる。だけど単なる北朝鮮批判映画になっていないところに衿を正す。北でもなく、南でもない。結局、彼女が安堵できるのは置き去りにした中国人夫で。“国”じゃなくて“人”なんだと。納得。
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映画ライター
中西愛子
十年前、家族のために出稼ぎに来たはずが騙され、中国の貧しい農村へ嫁として売られた北朝鮮女性B。長年会っていない祖国の家族。それなりに受け入れてきた中国の家族。2つの家族の間で揺れる彼女は、やがて、韓国へ脱北した北朝鮮の夫と息子に会いに行く。バタ臭い題材のわりには、洒落た印象すらある不思議なドキュメンタリーだ。フランスと韓国を拠点にする監督ユン・ジェホは、独特で逞しいマダムBを、フランス映画のヒロインみたいに撮る。そのタッチが映画に奥行を与えた。
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