マンチェスター・バイ・ザ・シーの映画専門家レビュー一覧
マンチェスター・バイ・ザ・シー
第89回アカデミー賞主演男優賞、脚本賞を受賞したヒューマンドラマ。ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリーは、突然の兄の死で故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻る。リーは16歳の甥パトリックの後見人となり、過去の悲劇と向き合うことに。監督・脚本は、「ギャング・オブ・ニューヨーク」脚本のケネス・ロナーガン。出演は、「インターステラー」のケイシー・アフレック、「オズ はじまりの戦い」のミシェル・ウィリアムズ、「キャロル」のカイル・チャンドラー、「ゼロの未来」のルーカス・ヘッジズ。製作は、「ボーン・アイデンティティー」シリーズの俳優マット・デイモン。
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翻訳家
篠儀直子
会話の途中で訪れる「気まずい沈黙」の間を、丁寧に拾っているのがやがて独特の風合いをもたらす。アメリカ映画の伝統を受け継ぎながらも、現代のフランスで撮られている家族劇映画のような感触もあり。主人公が負った傷はひどく痛ましく、重い内容に取り組んだ映画だが、広い意味でのコメディでもある。キャメラの距離の取り方が好ましい。主人公が部屋に飾った3枚の写真に誰が写っているのか、もちろんわれわれには想像がつくのだが、それを決して画面に示そうとしない慎ましさ。
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映画監督
内藤誠
故郷に居づらくなった男が主人公で、たとえばカーソン・マッカラーズの小説に出てくるような等身大、かつ説得力のある人間関係が展開。アカデミー脚本賞ながら、ここにはかつてのハリウッド映画にあったアメリカン・ドリームのかけらもない。主演男優賞のケイシー・アフレックの役をマット・デイモンが演じる予定だったそうだが、製作で正解。不機嫌そうなケイシーと甥のルーカス・ヘッジズの微妙なやりとりがいい味を出しているからだ。インサートされる海辺の町の風景が目にしみた。
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ライター
平田裕介
偏屈で人間嫌いの男が故郷の町に戻って、おかしくも切ないさざ波を立てていく。そんな物語かと思い込んだところで明かされる、あまりに壮絶な過去。まさしく彼のフラッシュバックのごとく映し出される“さまざまな時間と出来事”が、悲しみを乗り越えてよさそうなものなのに簡単にはいかぬ彼の姿にリアルな説得力を与えると同時に、そうした経験をしたことのない者にも猛烈なシンパシーを抱かせる。死んだように生きている者の所作を見事に体現したケイシーは、オスカー獲得も納得。
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