ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣の映画専門家レビュー一覧

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣

史上最年少で英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルとなりながら人気絶頂期に電撃退団した異端のダンサー、セルゲイ・ポルーニンの素顔に迫るドキュメンタリー。本人や関係者のインタビューを織り交ぜ、稀有の才能と大きな苦悩を抱えた彼の心を浮き彫りにする。歌手ジェームス・ブラントや写真家サリー・マンなどのドキュメンタリー映画を手がけてきたスティーヴン・カンター監督が、型にはまらない天才ダンサーの姿を追っていく。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    前々号で私が絶讃した「ザ・ダンサー」のロイ・フラーもそうだが、舞踊家は精神的に孤独な存在に見える。本作のポルーニンは規範や権威を順守できない天才で、母国ウクライナからロンドン、モスクワと転々とするのは彼の宿命だ。バルサ一筋のメッシほど強靱な天才ではない。日本の武原はん、朝鮮の黄真伊のように、権威を超越して歴史に名を刻む舞踊家は存在した。でもYouTube動画が映画のクライマックスであるうちは、まだまだと断言する。後の精進こそしつこく追うべきだった。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    セルゲイはなぜ英国ロイヤルバレエ団から脱退したのか? 監督は家族や関係者にインタビューする。が、いくら聞いても見えてこない。バレエ界のしきたりが原因? ウクライナ出身ということが影を落としている? いや、家族が重荷じゃないのか。息子のためにひたすら献身し続ける母と父。その愛情の束縛。振り払えないしがらみ。セルゲイのおびただしい刺青は、そんな彼の痛みの刻印に見えて。てなことを想像するのも、肝心要を迂回したようなドキュメントなので。踊りは眼福だけど。

  • 映画ライター

    中西愛子

    セルゲイ・ポルーニンという人は、きっと“ナチュラル・ボーン・ダンサー”で、どんなふうに育っていても、どこかでバレエに出会い、才能を伸ばしていたと思う。ウクライナでの家族との子ども時代、英国ロイヤルバレエ学校に渡っての少年時代、脚光を浴びるが精神的なバランスを崩していく青年期から再生までを追うこのドキュメンタリーは、ダンサーとしての顔以上に、一人の若者の人間としての壮絶な模索をとらえているように感じた。もがき、踊る、その生き様が鮮烈な印象を残す。

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