草原の河の映画専門家レビュー一覧

草原の河

チベットの雄大な自然の中に暮らす遊牧民一家を幼い少女の目を通して描いたドラマ。弟や妹が生まれたら両親に構われなくなるのではと不安がるひとり娘ヤンチェン・ラモ。親からの愛に欠乏感を抱える父グル。それぞれのぎこちない関係がやがて変化していく。本作でヤンチェン・ラモが第18回上海国際映画祭アジア・ニュータレントアワード最優秀女優賞に輝いた。劇場公開に先駆け、上海国際映画祭推薦作として第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にて上映(上映日:2016年10月25日、28日、30日/映画祭タイトル「河」)。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    中国西部・青海省を舞台に、チベット人家族の肖像にカメラは留まり続ける。余計なものは一切描かず。乳離れしない甘えん坊の幼娘、祖父との感情的もつれを解消できない父。羊飼いの放牧生活を鷹揚に撮影しつつ、雪解け前の草原地帯の硬軟入り交じった風景を大?みする。この土地を知り尽くすソンタルジャ監督にしか撮れない世界である。中国政府はチベット問題に神経を尖らせるはずだが、これほどチベット的な作品が国際映画祭を賑わすというのは、ある種の懐柔なのだろうか。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    六歳の女の子が、死と誕生を経験する。父に対する不信の感情ももつ。その心の動きを、彼女の自然な表情で見せきった演出の細やかさ。広大な草原。女の子がとぼとぼ歩く。その小さな姿を高台から父親が見下ろす。ここを一つに収めた遠近画面の見事さ。娘と父、その父も祖父に心を閉ざす。凍った河が二つの父子を隔て、やがて季節の推移とともに水も、彼らの心もゆるむ。この悠々たる筆遣い。一見モンゴル映画。だけどちらり中国の影がうかがえるところが、紛れもなくチベット映画だと。

  • 映画ライター

    中西愛子

    厳しい自然の中で牧畜を営む家族。長篇第2作となるチベット人監督ソンタルジャは、父と母と小さな娘の素朴な生活を描きつつ、父が祖父に抱くある複雑な思いを映画に謎めいた揺らぎとして漂わせ続け、そうすることで、穏やかな家族の風景をただ居心地のよいものだけにしていない。シンプルだが、男女の根源的なところを探り当てている作品。計算か直観かわからない魅力的なショットを重ねていく、映像で動かす独特な話術が凄い。役者の顔や表情が美しくとらえられているのも必見だ。

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