十年の映画専門家レビュー一覧

十年

製作(2015年)から10年後の香港を見据えた短篇「エキストラ」「冬のセミ」「方言」「焼身自殺者」「地元産の卵」の5篇から成るオムニバス映画。中国返還後、一国二制度下で揺れ続ける香港が内包する問題を浮き彫りにする。劇場公開に先駆け、第11回大阪アジアン映画祭内の特集企画Special Focus on Hong Kong 2016にて上映された(上映日:2016年3月10日、13日)。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    オムニバス各篇はどれも作り手の未熟さを露呈する。でも引き込まれるのは、2025年香港というSF的想定にもかかわらず、これが私たちの普遍的物語でもあるからだ。中国政府のグローバル支配に圧殺されていく自由都市・香港の庶民たち。印象深いエピソードは、普通話(北京語)の苦手な昔気質のタクシー運転手が「普」に×の付いたステッカーを貼らされ、四面楚歌となる一篇。まさか香港映画から、あのけたたましく語尾がせり上がる広東語の消える日が来てしまうのだろうか?

  • 脚本家

    北里宇一郎

    こういう、今、そこにある問題を描いた作品に対しては、良し悪しなど二の次にしたくなる。共鳴できるかどうか、それだけじゃないかと。それでもというか、だからこそというか、やっぱり映画としての表現がちゃんとしてるか、魅力的かどうかは問われるべきじゃないかと。なぜなら、それが“作品”のもつ宿命だから。①は凡庸②は観念すぎ③は言葉のズレをネタにして小粒でピリリ④は力の入った告発劇だが⑤は子どもたちに紅衛兵を暗示させ、一番の印象。で、香港支持!

  • 映画ライター

    中西愛子

    香港の十年後となる近未来の風景を、5人の若手監督が予想して描いたオムニバス映画。かなり風刺的に香港社会が観察され、かつ強いメッセージが放たれているにもかかわらず、香港の主要映画賞を獲得し、口コミで大ヒットと興行的にも成功しているというから驚く。従来の香港映画の匂いと明らかに違う。何が起こってる? 参加している30代の監督たちは、日本でいうと、どういうスタンスにいる人たちなのか。この作品を観ると、日本や日本映画の十年後を予想せずにはいられない。

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