素敵なダイナマイトスキャンダルの映画専門家レビュー一覧
素敵なダイナマイトスキャンダル
1970~80年代にサブカルチャーを牽引した雑誌編集長・末井昭の若き日を柄本佑が演じた青春ドラマ。幼い頃に母が隣家の男とダイナマイトで心中するという壮絶な体験をした末井。上京後彼は発禁と創刊を繰り返しながら、多くの雑誌を世に送り出していく。監督は「南瓜とマヨネーズ」の冨永昌敬。笑いと狂乱に満ちた当時のアンダーカルチャーシーンを浮かび上がらせる。また、末井の母を演じた尾野真千子と原作者である末井昭本人が主題歌『山の音』を歌っている。
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映画評論家
北川れい子
断然、断固、面白いったらない。但し、かなり個人的な理由もある断然、断固の面白さなのだが、それはともかく、末井昭氏(とても呼び捨てにはできない)の悲喜劇的人生は、社会や世間にいくつもの隙間があった昭和後半期の切り込み隊長のようで、武器は女性のきわどい裸をメインにしたエロ雑誌、みんなで作れば怖くない!? 母親に関する回想にしても、どこか飄々としていて、当時の空気感や時代風俗も頑張っている。柄本佑の力みのない演技も最高で、警視庁筋の松重豊もいい感じ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
のちにディープだったと回顧され評価されるサブカルをやったひとたちは飽きっぽくイイカゲンで、つまり快感純度が高いひとたちで、それを後年丹念に追い、研究してしまういまの人間は飽きっぽくない、つまり退屈な人間なんじゃないか。そこに忸怩とする。本作は面白いが、冨永昌敬がいま同時代的なものを手探りしながらつくった映画よりは若干おとなしいものになってる気がした。ときに美青年ときに異常者的な柄本佑の演じる末井昭、菊地成孔のアラーキーはずっぱまりだった。
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映画評論家
松崎健夫
個人的にはある時代に対する憧れに溢れているのだが、労働自体をよしとしない傾向にある昨今の社会や、品行方正を重んじる傾向にある昨今の社会通念と照らし合わせると、過酷な労働や煽情させることを厭わない出鱈目な姿勢はどう映るのだろうか。本作は性産業の年代記のようだが、勢いの波に乗った出鱈目な熱量が文化を生んだという昭和文化の裏面史でもある。その〈熱〉は汗や眼鏡の曇りなどが導く季節によっても視覚化。全篇に漂うこの〈熱〉こそが、時代の〈熱〉にもなっている。
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