栞の映画専門家レビュー一覧
栞
自立した日常生活が送れるよう患者をサポートするリハビリの専門職・理学療法士を主人公にしたヒューマンドラマ。理学療法士の雅哉が勤務する病院に、疎遠だった父・稔が脳腫瘍を患い入院してくる。日に日に弱っていく父の姿に、雅哉は無力感に苛まれるが……。元理学療法士という異色の経歴を持つ榊原有佑監督が、実体験を基に撮り上げた。出演は「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の三浦貴大、TV『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』の白石聖、「密偵」の鶴見辰吾、「信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)」の阿部進之介、「トリガール!」の前原滉、「忘れないと誓ったぼくがいた」の池端レイナ、「太秦ライムライト」の福本清三。脚本は、榊原有佑と「古都(2016)」の眞武泰徳。音楽をジャズピアニストの魚返明未が担当する。
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映画評論家
北川れい子
患者をサポートする理学療法士の悩みとジレンマ。監督の実体験がもとになっているそうだ。確かに療法士を主人公にすれば、当然主人公がサポートする患者たちの話も絡み、ちょっと言い方は悪いが、一石二鳥的な効果にもなる。が結果的にこの作品、二兎を追うもの一兎をも得ず――の図。つまり主人公が献身的にサポートしてきた元ラグビー選手の?末が、全てをチャラにしてしまい、どうしてこんな筋立てにしたのだろう。描くべきはプロの療法士の悩みより患者側の深い絶望だと思う。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
決まり文句としてよく言われる“実話の重み”。本作については時折その重みが重すぎて背骨が折れるかと思った。軽く言うもんではない実体験反映のネタの凄み、独自の現場を見てきたひとのつくる話の強さがある。主役を食う勢いの阿部進之介演じる脊椎損傷のラグビー選手のストーリー、「償われた者の伝記のために」という詩の“わたしには 死ねるだけの高さがあったのである”という言葉を思い出させる、立ち上がることすらもできなくなった逞しい男の行動には唖然とさせられた。
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映画評論家
松崎健夫
ベッドで握力を測る阿部進之介の表情を映し出したカメラは、棚の上にあるラグビーボールへとパンする。患者のバックグラウンドを映像によって表現しているように、観客は画によって何かを察するという演出が施されている。例えば、ガンを告知される姿、リハビリを諦めようとする姿など、各々の患者による様々なリアクションは、言葉以上の何かを観客が察するように演出されていることが判る。そして、スタンダードサイズの画角が、主人公の窮屈さを表現しているようにも見えるのだ。
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