汚れたダイヤモンドの映画専門家レビュー一覧
汚れたダイヤモンド
「ボヴァリー夫人とパン屋」のニールス・シュネデールが主演し、第42回セザール賞新人男優賞に輝いた犯罪ドラマ。音信不通の父が野垂れ死に、ピエールは父を見捨てたダイヤ商一族への復讐と強盗を誓い一族の会社に近づくが、初めて見るダイヤに魅せられる。俳優アルチュール・アラリがメガホンを取り、シェイクスピアの『ハムレット』をベースに父と息子の物語を活写し、2016年フランス映画批評家協会賞新人監督賞などを獲得した。
-
映像演出、映画評論
荻野洋一
なぜ主人公は道を誤り続けるのだろう。本作については、結末よりも発端の謎に興味を惹かれる。ファミリービジネスから道を外れて破滅した亡父に成り代わり復讐を誓って伯父宅に居候する主人公は、すぐに足が付きそうな盗難計画を、なぜ推進するのか。血筋ゆえ彼はすぐに家業の分野で天分の才能を見せる。でも流れに身をまかせず、半端な犯罪計画に拘泥する。才能と愚劣が彼の中で並存する倒錯感。フィルムノワールのジャンル性に留まりつつ、複雑な精神性が隠されている。
-
脚本家
北里宇一郎
シェークスピアの王族悲劇をノワールで彩ったような映画で。もうもう主役の男優、そこに尽きる。その瞳のアップ。余計なことは一切言わない。感情を抑えたその表情から、チラリ、野心と憎悪を匂わせて。そう、「太陽がいっぱい」の、あのドロンを彷彿。しかしあれほどの怜悧さはなくて、どこか弱さ、優しさを感じさせ、それがこの乾いた物語に一抹の愁いを与えている。脚本・演出はスタイルにこだわり、その想いが強すぎたのか、少し単調になった気も。が、この手の映画は久しぶりで。
-
映画ライター
中西愛子
懐かしくて新しい不思議な映画だ。これぞフランス映画と感じさせる刺激がつまっている。フィルム・ノワールの趣きもそうだが、抑制と計算が徹底された独特な演出のリズムにゾクゾクする。と同時に人の生理や感情がそこから激しく溢れ出す瞬間もあって、血の通ったブレッソンのよう、なんて言ったら怒られるだろうか。35歳の監督アルチュール・アラリ(撮影は兄のトム)は、天才というより、若い世代の頭脳とバランス感覚を持った異色の秀才かも。根が善人ぽいところも嫌いじゃない。
1 -
3件表示/全3件