ゲッベルスと私の映画専門家レビュー一覧

  • ライター

    石村加奈

    103歳の老女の顔を、右から左から上に下にと嘗め回すような、執念深い冒頭のカメラワークに「(ゲッベルスと)一緒に働いたという言い方はしたくない」という彼女の言葉の真偽に迫ろうという4人の監督の気迫が溢れる。ナチス党入党時のことを振り返る彼女の顔を、下から煽るように捕らえた挑戦的なカメラは「神は存在しない。だけど悪魔は存在するわ」と遠い目をして呟く彼女には優しい。ドイツ国民としての責任を率直に認める彼女の罪は、プロパガンダ相と同等ではないと思う。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    103歳老女の無数に刻まれた皺を強調するかのように、作り手はコントラストを上げたやや作為的な画調を選択する。ナチ中枢で秘書を務めた女性の述懐を聴いた筆者がこの話者に激しい軽蔑の念を抱いたとしたら、それは過剰反応だろうか。彼女は「自分は何も知らない小娘だった」と度々弁解するが、「知ろうとしなかったのは浅はかだった」とも認める。本作の存在意義は、この無自覚な加担者の浅はかさを、未来への教訓として記憶することに尽きる。私たちがこの老女にならぬために。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    こういう映画を観ると、日本でもと思ってしまう。戦争の時代、軍人以外の国民はみな被害者だったって映画が多くて。「この世界の片隅で」みたいな。ポムゼルさんにとってあの時代は日常で仕事で生活だった。当たり前に生きていて、無意識にナチスに加担していた。戦争ってそういうことで、だから怖いってことを、彼女のシワだらけの顔が語って。独国民は終戦時に強制収容所の映像を義務的に見せられたのか。加害者として自覚させられたんだ。じゃ、日本は? といろいろ考えさせられて。

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