私はあなたのニグロではないの映画専門家レビュー一覧

  • ライター

    石村加奈

    『ユダヤ人問題によせて』等で「類的存在」を目指し、リンカーンとも交流のあったマルクスの映画(右頁)を撮ったペック監督作品と理解して観れば、監督の本作のモチベーションがより明快になる。「駅馬車」から「エレファント」まで複数の映画から場面引用する荒技を、そして誰も見たことのない自由な映画を編み出した監督の「英雄」級のガッツに感服する。映画に限らず、様々な素材のパッチワークは刺激が強いが、サミュエル・L・ジャクソンのナレーションが心を落ち着かせてくれる。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    中米ハイチのベテラン監督R・ペックがJ・ボールドウィンの生前の出演素材やテクストを中心に、公民権運動から現在に至る米国黒人史を90分で語りきる。その手つきの鮮やかさはDJによるサンプラーのそれであり、作品のあり方自体がムーヴメントの歩みを現代的に体現する。メジャーからは「ブラックパンサー」が誕生する一方、中米のベテラン監督はボールドウィンの知性溢れる言動に照明を当てる。トランプ政権下、黒人映画が再びいっきにダイナミックな躍動を見せ始めた。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    「マルクス――」と同じ監督の作品。革命とか人種差別を題材にするのはハイチ出身ゆえか。60年代の公民権運動の経緯がJ・ボールドウィンの発言を軸にして綴られていく。その言葉は重く、感動的。ただ、その発言はじっくり文章で読みたいとも思う。記録映像の選択とか編集に工夫が凝らされているのは分かる。時代の流れも具体的に理解できる。が、既知のことをなぞっている印象もして。この映画、やや教科書的味気なさを感じる。今そこにある黒人迫害の現状こそ描いてほしく。

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