焼肉ドラゴンの映画専門家レビュー一覧

焼肉ドラゴン

「血と骨」などの脚本家・鄭義信が原作を手がけ、数々の演劇賞を受賞した同名舞台を自らメガホンをとり映画化。高度経済成長期の1970年代。故郷を奪われ、関西地方都市の一角で小さな焼肉店を営む一家が、時代の波に翻弄されながらも力強く生きる姿を映し出す。出演は「さよなら渓谷」の真木よう子、「白ゆき姫殺人事件」の井上真央、「マンハント」の桜庭ななみ、「探偵はBARにいる」シリーズの大泉洋、「神弓 KAMIYUMI」の大谷亮平、「まんが島」の宇野祥平。
  • 評論家

    上野昻志

    まず、舞台になるこの店の佇まいが素晴らしい(美術=磯見俊裕)。そして、一家の要となるアボジに扮するキム・サンホとオモニを演じるイ・ジョンウンが圧倒的な存在感を見せる。とくに、キム・サンホが、日本兵として片腕を失い、帰還する機会を逸して、この地で生きてきたことを「働いた、働いた」と語るときの顔には、彼自身は知らぬであろう在日の戦後が鮮やかに浮かび上がる。大阪万博前後の在日の一家の葛藤を描きながら、ある者は北へ、ある者は南へと別れる結末も心に残る。

  • 映画評論家

    上島春彦

    日韓混成キャストが効果的でセットも大がかり。練られた物語で大いに楽しめるのだが、舞台の方がさらにいいんじゃないのか、と思わせ満点とはならず。とはいえ三姉妹にトップレベルの女優陣を揃えるのが映画ならでは。みんな原作に惚れこんだのだと分かる。代表作となった。気が強い次女の結婚生活のトラブルが話を進める作りが上手く、これだけで十分に思う。つまり長男のいじめ問題が舌足らずな感じ。これは私が日本人だからそう思うのかな。調理場の仕切りの木の扉がユーモラス。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    舞台版はさぞ面白いだろうなと思わせる点では成功している。結婚・いじめの問題が一家を悩ませるが描写は平板で、息子の死という大きな事件も一挿話に収斂されてしまう。見事なスタジオセットが映画的な空間として活用されたとは言い難い。頻繁に登場する飛行機の轟音は意匠に留まり、会話が遮られるわけでも、よど号の話題が出るわけでもない。在日コリアンの地域社会は映されていても、その外の世界が感じられない。大泉が悪目立ちせずに絶妙の存在感で振る舞うあたりは感心。

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