氷上の王、ジョン・カリーの映画専門家レビュー一覧
氷上の王、ジョン・カリー
バレエのメソッドを取り入れた革命的な振付によって1976年冬季五輪フィギュアで金メダルを獲得したジョン・カリーに迫るドキュメンタリー。貴重なパフォーマンス映像と、家族や関係者のインタビューを交え、栄光の裏にあった深い孤独や病魔との闘いを見つめる。監督は「パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト」のジェイムス・エルスキン。ナレーションを「パレードへようこそ」のフレディ・フォックスが担当する。
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批評家、映像作家
金子遊
以前、渋谷のアップリンクでツール・ド・フランスに関するドキュメンタリーが一挙に3本公開されたことがあった。そこで働く知人に理由をきくと、「東京のミニシアターで映画を観る人数より、ツールのファンの方がパイが大きい」と答えた。なるほど、劇映画に比べて、ドキュメンタリーの動員には社会のファン層と直結しているところがある。伝説的な米国のフィギュアスケーターを描いた本作には、同性愛やエイズの問題も絡んでいて、熱心な観客が押し寄せる状景が目に浮かぶ。
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映画評論家
きさらぎ尚
フィギュアスケートを見ていて思う。スポーツ競技だろうかと。ジョン・カリーがこの映画で一つの答えを与えてくれた。スケートの技を高める努力にも増して、バレエのメソッドを取り入れて音楽を表現することに注力する彼は、フィギアスケートが芸術であることを認識させる。華麗な滑りの数々に加えて、セクシュアリティの苦悩、HIVとの闘いも語られ、全篇のドラマチックな編集◎。ラストの「美しく青きドナウ」の振り付けと演技に横溢するカリーの思いに胸が熱くなる。
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映画系文筆業
奈々村久生
フィギュアスケートがスポーツか芸術かは極めてグレーな命題で、身体能力やテクニックだけでなく表現力をも求められる。だがそれこそがスポーツとしてのこの競技の正当な評価を妨げてきたことも確かだ。肉体的な苦しみを絶対に表に出さないのが芸術であり、これがバレエ出身であるカリーの哲学の根底にあるのは間違いない。演技のどの瞬間を切り取っても完璧な美の追求と、ジャンプの着氷にすべてを左右されるスリル。どちらか一方だけでは満足できない我々の強欲をまずは認めよう。
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