12か月の未来図の映画専門家レビュー一覧
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批評家、映像作家
金子遊
パリの名門高校の教師が、バンリュー(郊外)の中学校に通うアフリカ系、中東系、アジア系などの多様な学生たちと向き合う姿を描く。低所得者層の移民はフランス社会において隅に追いやられ、反マクロンの黄色いベスト運動で怒りを表現しているが、そのような家庭から通う子供たちだ。俳優のドゥニ・ポダリデスによる、厳しくも愛情の深い教師の演技が見事。彼が生徒たちと関係を築く様子を、監督はシネスコサイズの手持ちカメラを使い、切り返しショットで映像的に表現している。
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映画評論家
きさらぎ尚
ドキュメンタリーのリアルさとドラマの面白さを併せ持つ。フォトジャーナリスト出身だという監督の資質のなせる技だと思うが、主人公の教師、生徒、学校側の三者の関係を立場の上下ではなく、人として交わらせているところが決め手である。分けても、エリート校から教育困難校に赴任してそれまでのやり方が通用せず打ちのめされ、その後に自分の方法を見出す主人公のキャラクターの立て方が素晴らしく、俳優もうまい。貧困と教育の問題は日本も同じ。面白くてためになる優れものだ。
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映画系文筆業
奈々村久生
名門校の教師が荒れたクラスに革命を起こす……といっても人は一夜では変わらないし、同僚のやっかみだってある。その生々しさが、しかし適度な距離感で迫ってくる。ドキュメンタリーよりもドキュメンタリーのように。それは二年かけて実際の中学校で出会った子供たちに自身を演じさせたという作り方の成せる技だ。教師役のドゥニ・ポダリデスも素晴らしい。生徒が登校する、それだけの地味なシーンが、小さくて大きな瞬間になる。終わり方までフランスらしいエスプリが効いていて見事。
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