サンセットの映画専門家レビュー一覧

サンセット

「サウルの息子」のネメシュ・ラースローによるドラマ。1913年、イリスはブダペストの高級帽子店で働くことを夢見てやってくる。そこは彼女の亡くなった両親が遺した店だった。だが、今のオーナーに追い返されてしまう。さらに彼女に兄がいたことを知る。出演は、「サウルの息子」のユリ・ヤカブ、「エリザのために」のヴラド・イヴァノフ、「リザとキツネと恋する死者たち」のモーニカ・バルシャイ。ヴェネチア国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、第91回アカデミー賞外国語映画賞ハンガリー代表作品。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    ブダペストにきて高級帽子店で働くイリスのそばにカメラが貼りつき、彼女の正面、側面、後ろ姿をフレーム内におさめながら、その視点から見える光景を撮影していく。ダルデンヌ兄弟を思わせるその撮影手法によって、観客は混沌とした都会の現実のなかから、イリスが置かれている状況や、両親と兄と彼女に起きた過去を想像しながら観ることをうながされる。この方法論が時代劇でも効果的であることに驚く。主観でも客観でもない映画カメラの、対象との距離感についても再考させられる。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ラースロー監督のデビュー作「サウルの息子」は、主題の衝撃と併せて、主人公の一人称目線といったらいいか、カメラの位置が気になっていた。それは今作も。ヒロインのイリスの目線として、1913年のブダペストから、歴史の出来事を映す。ただそれらは、冒頭部分で彼女が帽子のヴェールを上げて、テーマを暗示するも、はっきりとは見えない。それだけに難解ではあるが、結末のイリスの大きく見開いた曇りのない眼は、しっかり現代を見通している。着想は示唆に富み、果敢な作劇が◎。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    絶妙なタイミングで、然るべき相手と、思わせぶりな一言を交わすのみで、ドラマは展開する。極端に情報を制限された語り口はご都合主義と紙一重だ。ヒロイン個人の視点に即すという意図を理屈としては理解できても、彼女の存在自体が唐突で、物語の進行以上の役割を見出すことが難しい。何度も警告され、立ち去るチャンスを得ながら、なぜ彼女はその場に居続けることができるのか。ヒロインを演じたヤカブ・ユリの強い眼差しは一貫して変わらないが、迷いの無さは観客を突き放す。

1 - 3件表示/全3件