シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢の映画専門家レビュー一覧

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

一人の男が33年かけ築きフランス政府指定の重要建造物となったシュヴァルの理想宮の誕生背景に迫る人間ドラマ。愛娘アリスのためにおとぎの国の宮殿を建てることを思いついた郵便配達員シュヴァルは、周囲から変人と噂されながらも石を積み上げ続けるが……。監督は「グレート デイズ!-夢に挑んだ父と子-」のニルス・タヴェルニエ。途方もない挑戦をしたシュヴァルを「レセ・パセ 自由への通行許可証」で第52回ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)を受賞したジャック・ガンブランが演じる。フランス映画祭2019横浜公式上映作品(上映タイトル:「アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮(仮)」)。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    シュヴァルといえば澁澤龍彦はじめ多くが論じているが、岡谷公二さんの著作が最も詳しい。いずれにせよ奇人変人史上の最上位人物。そんな人間を妻と家族とオートリーヴの自然をこよなく愛し、それを美男美女の役者を起用し美しすぎる感動作に仕上げてしまったことに驚愕。SNSやメールのない時代、雑誌や新聞、手紙から得たイメージで「世界」を丸ごと再現してしまった理想宮。そこに今や「セカイ」しか再現できない私たちの哀しみをタヴェルニエ監督による「シュヴァル」に見た。

  • フリーライター

    藤木TDC

    世界から観光客を集めるシュヴァル理想宮。その作り手と妻のつつましき人生や夫婦愛を絵画のような映像、静かな音楽とともに淡々と描く。村里の郵便配達員の質素な日常と悲嘆が積み上げた独創芸術の宮殿という奇蹟。豊かな人生の秋を夢見させるのも間違いなく映画の使命だから、すでに安定を得た人々に本作は至福の時間かもしれない。しかし日本に住む現役世代の多くにはこんな理想の晩年はやってこようはずもない。煎餅布団の中でわびしい夢を見るしかない人間には無用の物語だ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    郵便夫の頑丈さと老いの具合を、滑らかに演じきったJ・ガンブランが見事。シュヴァルの奇人ぶりは否応なく現れつつ、構成は家族に焦点を絞り、愛された父親としての幸福を伴う横顔が浮かび上がる。「フィツカラルド」的な狂気に振り切らず、建造への妄執は美しい風景ショットとの対比で柔和に描かれ、家族の喪失という決定的な不運が最大の影を作り上げる。宮殿の建設で飾り細工より、土台作りに関する会話や描写が圧倒的に多いのも、現実味を直視した真摯さの表れだ。

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