種をまく人の映画専門家レビュー一覧

種をまく人

第57回テッサロニキ国際映画祭最優秀監督賞および最優秀主演女優賞を受賞した、自主制作の人間ドラマ。3年ぶりに病院から戻り、弟・裕太の家を訪れた光雄。姪の知恵やその妹でダウン症の一希に迎えられ幸せなひとときを過ごすが、翌日突然の不幸が訪れる。監督は「勝子」で第14回看取短編映画祭準グランプリを、「死と愛」で第22回新人シナリオコンクール佳作を受賞した竹内洋介。「ミュージアム」などに出演するほか「未来の記録」など監督としても活動する岸建太朗が光雄を演じるとともに撮影監督を務めた。知恵を演じた竹中涼乃は第57回テッサロニキ国際映画祭最優秀主演女優賞、第33回LAアジア太平洋映画祭ベストヤングタレント賞を受賞。
  • フリーライター

    須永貴子

    家族の死、罪、崩壊、再生への祈り。シリアスでヘヴィな内容は息苦しく、そして説教臭くなる恐れがある。しかし本作は、演出も映像も音楽も仰々しくなることなく、できる限りそこにあるものをそのまま映しているからか抜けが良い。主人公の少女、父親、担任の教師など、芝居を感じさせない演出と撮影も成功している。ゴッホの人生、キーアイテムとなるひまわり、ダウン症患者、被災地への想いは、監督のメッセージを読めば伝わるが、映画には落とし込めきれていない。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    確か三島由紀夫いわく、「芸術というものは世の中に毒をまき散らすことにほかならない」。毒を承知でまき散らすのはともかく、薬だと言って毒をまくのは犯罪である。そして自覚もない時にはなおさら罪深い。いたいけな少女がむごい罪を犯し、それを心を病んだ叔父になすりつける。が、それを親は、なかったことにさせてしまう。この少女の行く末を思うとやりきれない。彼女は償えない罪を一生背負って生きていくのだ。少女も我々もひまわりがいくら咲いても決して心を癒されない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    ダウン症の妹を事故で死なせ、その責を伯父に負わせる姪。伯父はフクシマの惨状を目にして精神障害を負ったという設定。彼が罪を負い、贖罪のヒマワリの種をまくという形で聖人化されることで、姪の罪も何だか原罪のように深刻めいて見える。フクシマだのダウン症だの、(姪の)いじめだの、社会的事象をてんこ盛りにした分、それぞれについての視線は浅く、何が社会において罪なのか、救いなのか、人間の、社会の奥にまで届くような深みを獲得するに至っていない。

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