大海原のソングラインの映画専門家レビュー一覧

大海原のソングライン

    16の島国に残る伝統的な音楽とパフォーマンスを記録した音楽ドキュメンタリー。はるか昔、数千年に渡り大海原を行き、島々に音楽を残した船乗りたちの航路を追跡。かつて同じ言葉や音楽でつながっていた島々の歌を再び集結させ、壮大なアンサンブルを奏でる。本作に先駆け発売された音楽アルバム『Small Island Big Song』は、2019年イギリスSonglines Music Awardsアジア・太平洋部門最優秀アルバム賞、2019年ドイツレコード批評家賞 Award of the German Record Critics年度最優秀アルバムなどを受賞。2019年沖縄国際映画祭『桜坂映画大学』にてワールドプレミア(上映タイトル「スモールアイランド・ビッグソング 小島大歌」)。2020年5月下旬公開より延期。
    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      被写体の力とそれをカメラで捉える側の力が拮抗して、ドキュメンタリーは初めてスクリーンで観るに値するわけだが、本作は後者の力が及んでいない典型的な作品だ。そこで鳴らされている音楽への驚き、パフォーマーの肉体や表情への没入を阻害する、煩雑な編集や安易なスプリット画面。各部族が伝統を忠実に受け継いできた音楽と、それを現代的な解釈で発展させた音楽を並列で紹介していて、その文脈や歴史の流れは示されないので、アカデミックな興味も満たされない。

    • ライター

      石村加奈

      16の島国の伝統音楽が数珠繋ぎになって太平洋を渡る、さながら音楽の船旅だ。マダガスカルのヴァリハ奏者ラジュリーが、コブ牛に捧げた「オンビー」(傍の鳥まで踊っているように見える場の力!)に聞き惚れていたら「哺乳類の60パーセントは家畜」というテロップが。後半顕著になっていくこの構成は、歌が心地よい分、ショックも大きい。雄大な船旅に環境問題を取り込んだことで、いまこの映画を作る意義は強まったが、コンセプトが曖昧になり音楽本来の魅力が損なわれた感は否めない。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      考古学では、文字が残っていない文明を研究する際、その地に伝わる音楽や踊りを分析し、ルーツを探る。約5千年前に台湾先住民を原郷とし太平洋、インド洋に広がった 「南島語族」の“航海の記録”を本作はまさに音楽そのもので表現している。詳細な説明はなく、ただ世界16カ所、それぞれの地で生きるその末裔たちが伝承されてきた音楽を演奏し歌い、一つの壮大なアンサンブルとなる様を描くのだが、これが圧倒的なグルーヴを生み出し全篇気持ちが良い。音響環境が良い劇場で観るべき。

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