ハウス・イン・ザ・フィールズの映画専門家レビュー一覧

ハウス・イン・ザ・フィールズ

    モロッコの山奥で数百年もの間ほぼ変わらない生活を送るアマジグ族の姉妹を記録したドキュメンタリー。第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門最優秀ドキュメンタリー賞ノミネート。監督が5年にわたり現地に通い、アマジグ族と寝食をともにして撮影した。監督は、建築家ザハ・ハディドを叔母に持ち、写真家でもあるタラ・ハディド。劇場公開に先駆け2020年5月1日~28日オンライン配信。
    • 映画評論家

      小野寺系

      登場する人物の内面の声をシーンにかぶせるなどの演出があり、劇映画と融合する部分のあるドキュメンタリー。だがシーンの意図は明らかにされないため、観客が映し出される内容を判断していかざるを得ず、鑑賞者の能動性と知識が必要とされる。とはいえ、特定の民族や女性への差別と貧困問題からくる搾取構造が根底に描かれていることは明白。少女の結婚にまつわる詳細は語られないが、自分の生き方を決めることができない人間の声なき叫びが聴こえてくるような怖ろしさがある。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      3本の糸による弦楽器を弾く村人、不思議な文字で書かれた季節、記録されたアマジグ族。楽器も文字も民族も初めて目にする。そしてアトラス山脈が育む自然とともに暮らす彼らのプリミティブな営みに感嘆する。野に命が芽吹き花の満ちる春、収穫の秋、宗教行事。一方、結婚のために学校を辞めて都会に出ることを当たり前に思っている姉に対して、弁護士を目指し学業を続けたい妹。伝統に根ざした生活文化と、姉妹の思い。変わらないものと変わりゆくものが並存し、静かに浮かび上がる。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      モロッコの先住民族、アマジグ人の生活をつぶさに写した本作の主軸を担っている幼い姉妹が語らういくつかの場面で劇映画さながらの恣意的な演出が散見されることからこの作品が純粋な記録映画でないことは明白で、自然と共存し生きてゆくことの美しさと、しかしそれにより奪われている現代人が享受すべき自由とを対比させることで浮かび上がるのは人間にとって、女性にとって幸せとは何かという原初の問いであり、これは先進国に生きる我々にとっても根を同じくした問題ではないか。

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