ジャッリカットゥ 牛の怒りの映画専門家レビュー一覧

ジャッリカットゥ 牛の怒り

第93回アカデミー賞国際映画賞のインド代表作品として選出されたパニック・スリラー。肉屋のアントニが一頭の水牛を屠ろうと鉈を振ると、命の危機を察した牛は全速力で逃げ出す。牛が暴走を続けるなか、牛追い騒動はやがて人間同士の醜い争いへと発展していく。監督は、驚くべき視覚的トリックと奇想天外のアイデアで、インドにおいてカルト的な人気を集めるリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    驚愕の91分。アカデミー賞インド代表との事だが、最近のインド映画はこのようになっていたのか。壮大な、しかし局所にフォーカスしたたった一曲のオペラのようだ。これでもかというくらいに追い打ちをかけられていく演出。自然と鼓動が高まり手練手管の限りを尽くして高揚させられる。ガムランによるケチャのように登りつめていく。しかしケチャのような最小限の動きではなく、最大限の動きだ。追い詰められ追われているのは、牛ではなく、我々観客の方のなのかもしれない。

  • フリーライター

    藤木TDC

    驚愕が連続する異形の映画。民族衣装の巻きスカート=ルンギをセクシーに何度も巻き直すヒゲデブ率99%の男が大量出演、南インド山間部の脱走水牛捕獲騒動を描く。土着性と実験性が混在し「アギーレ 神の怒り」や「地獄の黙示録」と同じ類の神話再現を試みたようにもとれる。駆けめぐるカメラ、山肌の大群衆、アニマトロニクス(!)の牛。そして芥川『蜘蛛の糸』か諸星大二郎『生命の木』かという大迫力のクライマックス。なかなか牛が出てこない前半が眠かったので減点1。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    「暴走牛vs1000人の狂人!!」という惹句が躍りパニックスリラーとなっているが、もっと暗喩的な作品だ。人死にが出る御柱祭りのように、我々は衝動のはけ口を作る。または川崎ゆきおの『猟奇王』のように、男たちは本能的に走り出すことを求めていて、そのきっかけを待っている。じつは洗練された理解と感覚の映画で、編集や後半の大量に灯る光の扱い方、うねりが整然と増していく構成など、土着的に見える設定とはかけ離れた先鋭的センスが光る。都会派によるプリミティブアートだ。

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