コレクティブ 国家の嘘の映画専門家レビュー一覧

コレクティブ 国家の嘘

2015年、東欧ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”で実際に起こった火災事件を発端に、製薬会社や病院、長期政権に連なる癒着と腐敗の真実が暴露されていくドキュメンタリー。火傷で入院した人たちが次々に細菌感染で亡くなっていったその原因とは……。ルーマニアの国外で治療された患者は助かり、国内の病院で軽傷だった患者が亡くなる事実に不審を募らせたスポーツ新聞の記者がいた。その地道な調査報道に密着取材を願い出たのは、「トトとふたりの姉」のアレクサンダー・ナナウ監督。映画の後半では熱い使命を胸に就任した30代の新大臣を追い、異なる立場から大事件に立ち向かう人たちを捉えている。まるでリアルな「スポットライト 世紀のスクープ」だとも評される本作は、命の危険を顧みず真実に迫ろうとする人たちの奮闘に思わず手に汗握るだけでなく、日本をはじめ世界中のあらゆる国が今まさに直面する医療と政治、ジャーナリズムの問題に真っ向から迫っている。「メディアが権力に屈したら、権力は国民を虐げる。それがこの国と世界で繰り返されてきたことだ」と語るスポーツ新聞編集長の気概に満ちた言葉が見る者の心に突き刺さる。ドキュメンタリーでありながらアカデミー賞のルーマニア代表として選出され、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞の2部門でノミネートを果たしたほか、世界各国の映画祭で28の賞を獲得した。
  • 映画評論家

    上島春彦

    見応え満点、ルーマニアの医療体制告発映画。出来がいいのでかえって書くことがない。星取的には最適。さすがに日本の病院はここまで酷くはないだろう。今さらだがルーマニアというのはかつて独裁大統領の腐敗政治で有名だった国。すべては歪んだ冷戦体制の余波である。面白いのは、こういう時にはちゃんと亡霊のように共産主義陣営から御用ジャーナリストが現れ、不正を正そうとするリベラルを潰すことか。一日も早くこの世界から誤った思想政治社会がなくなることを祈る。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    第一部から第二部へより内部へと迫っていく構成で描かれるルーマニアにおける政治と医療の汚職問題は、コロナ禍以降ますます国民の社会的不安を高め続ける現政権に疲弊する日本にとっても決して対岸の火事ではない。映し出されるのは完全無欠の正義者ではなく、権力の前に心を挫かれもする生身の人間たちだ。火災事故で手指を失った女性生存者は自身をアートに昇華させているが、何度も画面に現れる彼女の存在はこの映画をより高次元に押し上げているようにも見え、とりわけ忘れ難い。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    いやはや凄まじい。タイトル前の衝撃映像に度肝を抜かれ、それにつづく決まりに決まった演出やカメラ・ポジションを見ていると、いよいよ虚実の境目があいまいになってくる。だが、そこにこそ生半可な想像力や問題意識では太刀打ち出来ないルーマニアの現実が潜んでいる。中盤で主人公が切り替わるのは本作の賭け金であっただろう。そしてそれが映画的駆動力を高めていることもたしかなのだが、一方で構成を散漫にしていて、映画の難しさを憂う。願わくば倍の尺で観たい。続篇希望。

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