THE MOLEの映画専門家レビュー一覧
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米文学・文化研究
冨塚亮平
当初の企画が次第に予想を超えた規模に発展していくにつれ、身の危険を顧みずさらに事態を過激化させていく撮影チームは、ある意味で告発対象よりも恐ろしい。なぜか報酬もなしに自ら進んでリスクを負う主人公、圧倒的なうさん臭さと存在感を放つミスター・ジェームズ、そして監督。彼ら三人の胆力と覚悟は、明らかに正義感以上に好奇心や悪意と結びついている。そんな彼らのタガの外れた悪ふざけぶりが生んだ、より危険でサスペンスフルな「ボラット」とでも呼ぶべき異形の一本。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
いくらなんでも北朝鮮へのスパイ活動の内容が凄すぎる。映画はスパイのウルリクを「目立たない人物」と評するが、無表情というのが適切で、彼の感情は一切わからない人。フィクションにおけるスパイならば表情と心理のズレをサスペンスに交換するところだが、主役ののっぺらさがこのドキュメンタリーの特徴だ。そして、石油王に扮してウルリクをサポートする「役者」のミスター・ジェームズや闇取引を行う北朝鮮関係者が揃いも揃って良い表情ばかりなのも嘘みたいによくできている。
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文筆業
八幡橙
鑑賞中、“ざわざわ”が止まらない。今、何を見ているのか、こんなことをして大丈夫なのか、映画として公開しちゃって本当にOK? 何より、これは本物のドキュメンタリーなんだろうか!? 隠しカメラとは思えぬほどリアルで鮮明な「潜入映像」は一方で、見慣れた風景にも思える。武器売買契約終了後の宴席など、「工作」にこんなシーンが、と過去の映画の断片が頭に浮かんだ。そう、混乱しつつ確実に言えるのは、フィクションに劣らず滅法面白いということ。マッツ・ブリュガー恐るべし。
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