ファイター、北からの挑戦者の映画専門家レビュー一覧

ファイター、北からの挑戦者

ボクシングと出会い、生きる希望と勇気を取り戻す脱北者の姿を描いた感動作。脱北者のジナは、ソウルでボクシングジムの清掃の仕事に就く。悲惨な過去と怒りを抱え、壁を作るジナに静かな闘志を感じ取った館長とトレーナーは、彼女をボクシングの世界に導く。監督は、ドキュメンタリー「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」のユン・ジェホ。出演は、ドラマ『愛の不時着』のイム・ソンミ、「オールド・ボーイ」のオ・グァンロク、ドラマ『Wish you~僕の心の中、君のメロディー』のペク・ソビン。2021年ベルリン国際映画祭正式出品作品。第25回釜山国際映画祭主演女優賞・NETPAC賞をW受賞。
  • 映画評論家

    上島春彦

    韓国における脱北者の実態について考えたことがなかった。差別がまかり通っているようだ。それにしても偶然からプロボクサーを目指すことになる主人公の無愛想ぶりが凄い。興福寺阿修羅像に通ずる宗教的な眉根の寄せ具合。シャープな身のこなしを褒められて、しかし意固地になり「北と見たら何でも特殊部隊か」という捨て台詞が実にいい。深刻な場面なのに笑ってしまう。つまり愛想がないのが彼女の取り得である。そして本当は強いのに、物語ではしょっちゅう負けるのが効いている。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    「北朝鮮の人間はいつも映画で血も涙もない人のように扱われています」とイム・ソンミ演ずる主人公の女性が、劇中で毅然と言い放つ。5年前にドキュメンタリー映画(「マダム・ベーある脱北ブローカーの告白」)で北朝鮮の女性を描いたこともあるこの監督は、動機がこの一言に凝縮されているかのごとく、イム・ソンミの顔貌から滲み出る人間の情動へ執拗に迫り続ける。寡黙な館長の存在感にも胸打たれ、今年公開された韓国映画「野球少女」と共に優れた師弟映画として並べられる。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    もはやひとつのジャンルになりつつある手持ちカメラによるボクシング映画。ただ、ボクササイズレベルの技量しか持たないライバルとのしのぎあいには当然ながら何の緊張感もない。では主人公が真に打ち倒したい相手とは、脱北者である己と家族の過去なのか。しかしこちらも凡庸で有り体な描写が積み重ねられるだけで、脱北者ならではの具体や人生が垣間見える瞬間はほとんどない。演出全般のつたなさを俳優の顔の良さで補おうとする演出家の戦略だけはある程度うまくいっている。

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