ユダヤ人の私の映画専門家レビュー一覧
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米文学・文化研究
冨塚亮平
ダンスや女性に熱中した若き日の記憶について語る場面を比較的長く取り上げることが、ファインゴルトの人となりを伝えるとともに、その後の痛ましい体験との落差を際立たせている。随所に挿入されるホロコースト関連のアーカイヴ映像は資料性の高さと裏腹に目先を変える役割しか果たしていないようにも見える一方、同様に挿入される反ユダヤ主義者たちからファインゴルトへの近年のものを含む誹謗中傷の数々は、反ユダヤ主義が終わってなどいないことを端的に示す意味で効果的。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
ホロコースト生存者、マルコ・ファインゴルトの証言に、ときおりニュース映像と反ユダヤ主義的な誹謗中傷の手紙が引用される。ホロコーストにまつわる記憶と当時の映像、そして今もまだ続く反ユダヤ主義という三つの要素は極めてシンプルな構成にもかかわらず、過去と現在とその狭間の時間軸を作り出している。ただし本来いるはずのインタビュアーの存在は消え、あまりにも饒舌で明晰に語るファインゴルトの姿に、編集の巧みさが良い意味でも悪い意味でも気になってしまう。
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文筆業
八幡橙
シリーズ第一弾「ゲッベルスと私」同様、余分な演出を排除した極めてストイックな映画だ。軸となるのは、撮影当時103歳だった、マルコ・ファインゴルト氏の独白のみ。オーストリアにおける反ユダヤ主義の根深さについて訴え続けてきた彼は、長い歳月を経てもなお、当時を振り返り怒りを滲ませる。途中挟まれる貴重なアーカイブ映像も多くは無音で、観客をいたずらに煽動しないよう細心の注意が払われているが、正直、もう少しだけ人間としての氏の素顔が覗く言葉を聞きたかった。
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