ストレイ 犬が見た世界の映画専門家レビュー一覧
ストレイ 犬が見た世界
殺処分ゼロの国トルコのイスタンブールを舞台に、自由に街を歩き回る野良犬の目線から犬と人間が共存する世界を見つめたドキュメンタリー。トルコを旅していた自身も愛犬家のエリザベス・ロー監督が自立心の高い主人公の犬ゼイティンと出会い、半年間にわたって撮影した。常に犬の目線に合わせたローアングルの高性能カメラは、犬の表情や足取り、コミュニケーションをつぶさにとらえ、やがて彼らの感情と同調していく。そこから見えてくるのは、高い知能と理性と愛にあふれた犬たちの姿と、高度に保たれているコミュニティの在り方だ。仲間に分け与え、見返りのない愛を注ぎ、許すことをそっと教えてくれる。「ストレイ」とは、はぐれるの意味。そして野良犬、浮浪者、浮浪児のこと。道端からの目線は、犬たちが時に行動を共にするシリア難民の少年たちの目線でもある。彼らの視点で街を見渡せば、人間社会が持つ様々な問題と愛に満ちた世界が同時に見えてくる。
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映画評論家
上島春彦
アニマルプラネット系の「キュートすぎるワンちゃん」物とは一味違う。この映画は犬同士のコミュニケーションのみならず、犬から見られた人間社会も等分に、低いカメラ目線で描かれる。面白いのは、アニメだと犬目線というのは物語からの人間排除の意思の表れだが、この映画はかえって人間の存在が際立つところ。コーランの唱和に合わせて主役の犬が遠吠えする場面がその典型だ。野良犬といっても人間がいなくては生存できないシステムになっているのが現代。その哀しさが見えた。
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映画執筆家
児玉美月
同じくトルコのイスタンブールに暮らす猫たちを描いたドキュメンタリー映画「猫が教えてくれたこと」は、公開当時に観た記憶が正しければ自由気ままな作品だったことに思い至る。そう考えれば猫ではなく犬となったときに、自在に動き回るのではなく彼らの目線に徹底して従順になるカメラというのも理にかなっているのだろう。ここで炙り出されていくのはそれぞれに個性を持った犬たちだけではなく、ときに凶暴で、ときに滑稽で、ときにあたたかい多種多様な人間たちの姿でもある。
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映画監督
宮崎大祐
犬の目で旅するエルドアン政権下のイスタンブール。カメラが透明になったのではないかと錯覚するほどの優れた被写体との距離感に加え、神々しいショットが幾つもあるが、サウンド・デザインも負けずに素晴らしい。人間社会の悲喜交々が絶妙なバランスで配置され、広がり、耳に入ってくる。結果、人間はもはや世界の中心ではなく、あくまでかたすみ、一部に過ぎないという感覚がもたらされる。大の犬好きである筆者は本作の世界各地でのシリーズ化、LIVE配信を夢想した。
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