すべてうまくいきますようにの映画専門家レビュー一覧

すべてうまくいきますように

フランソワ・オゾン監督がソフィー・マルソーと初めて組んで贈る、愛する家族の尊厳死をめぐる物語。芸術や美食を楽しみ、ユーモアと好奇心にあふれ、人生を謳歌していた父が突然、倒れた。順調に回復するものの、父は安楽死を願う。二人の娘たちは葛藤を抱えながらも、その思いに真正面から向き合おうとするが……。父のアンドレを演じるのはトリュフォーやロメール作品で知られる名優、アンドレ・デュソリエ。共演には、オゾン作品の「まぼろし」(01)「スイミング・プール」の主演女優シャーロット・ランプリング、「17歳」(13)のジェラルディーヌ・ペラス、「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」(19) のエリック・カラヴァカ。カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    各人物の死生観をめぐる背景をさりげなく提示しつつ、当人の葛藤よりも周囲が死をどう受け入れるかに焦点を当てることで、看取りをめぐる通念に揺さぶりをかけながらサスペンスフルなドラマへと落とし込む匙加減が絶妙。安楽死という主題が孕む深刻さ以上に軽やかな笑いを随所で強調しながら、頑固で旧時代的だが憎めない人たらしのダメ男という役柄にこれ以上ない説得力をもたらすアンドレ・デュソリエの演技に惹きこまれるなかで、ゴダールの最期もこんな風だったのかもと想像。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    尊厳死というセンシティブでセンセーショナルなテーマを扱いながら、非常に穏やかで晴れやかな作品。父親の隠された過去や、父との確執の真実などなど、父親の死を目前にして明るみになる、さまざまな出来事などをいくらでも盛り込めそうなところ、秘密など何もないかのように、死を望む父とそれを受け入れるしかない娘の姿を、ときおりユーモアも交えながら淡々と映していく。穏やかすぎて逆にあやしいハンナ・シグラが、本作唯一サスペンスを身に纏っていて印象的。

  • 文筆業

    八幡橙

    愛する男の墓で踊る10代の少年を描いた前作から、自ら墓に入らんとする父に翻弄される50代の娘の今作へ。オゾンとマルソー、同世代の二人も今まさに置かれているであろう、家族の老いや、そこに重なる自らの老いと先行きへの不安が去来する日々。過去と未来、そして今が一気にのしかかる年頃のやるせなさが、安楽死を超えて普遍的に迫りくる。父が齧ったサンドイッチを捨て切れぬ主人公の心の揺らぎや、彼女の、そしてランプリング演じる母の、皺に刻まれた憂愁の目顔が沁みた。

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