プーチンより愛を込めての映画専門家レビュー一覧
プーチンより愛を込めて
ロシアのプーチン大統領はいかにして現在のような強大な権力を握り、自らの統治国家を築き上げたのかを探るドキュメンタリー。プーチン大統領候補の選挙PR動画の撮影を依頼されたヴィタリー・マンスキー監督が1年間にわたって密着取材した当時の映像を編集し、隠されたプーチンの本性を明らかにする。プーチンはロシア連邦初代大統領ボリス・エリツィンの後を継ぎ、2000年に第2代大統領に就任した。当時の憲法上の制限から2期で退いたものの、2012年の大統領選で復帰。実質的にプーチン政権は20年以上にわたり続いている。大統領就任後、第二次チェチェン紛争、五輪のドーピング、ウクライナ侵攻が始まったほか、プーチンに逆らった人々の亡命、投獄、死もあった……。カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞受賞作。
-
映画監督/脚本家
いまおかしんじ
恩師である小学校の先生が、今か今かと待っている。取材班はプーチンが来ることをサプライズで仕掛けるが、先にSPが来てバレてしまう。エリツィンが当選したプーチンにお祝いの電話をかける。折り返すと言われて待つが全然かかってこない。笑ってしまう。監督はずっとカメラを回している。もう撮らないと言いながら一向にやめない。娘が風呂に入っているところも延々撮る。奥さんにブチ切れられてもカメラを止めない。そのしつこさがプーチンの怖いところをあぶり出している。
-
文筆家/俳優
睡蓮みどり
監督自身の幼い娘の入浴シーンが本作の比較的最初のほうにある。その映像を使用していることに少々混乱し、引っかかってそのままうまく咀嚼できないままになってしまったきらいがある。ロシアという巨大な国家を我がものにしたプーチンが、いかにしてそうなってしまったのか、そしてなぜ戦争を始めてしまったのか、その本質を若い日の彼の言動から探そうとしてしまう。プーチンを任命した直後のエリツィンと家族たちの様子も興味深い。公開できたということ自体が驚きでもある。
-
映画批評家、都立大助教
須藤健太郎
冒頭のホームビデオがこの映画の換喩だとするなら、監督の認識には大きな誤りがあるのではないか。監督は撮影をいやがる妻や娘にカメラを向け続ける。再三の拒否にもかまわず、入浴中の娘の裸を映す。たぶんプーチンにも同じことをしているつもりなのだ。大統領の活動を間近から追い、官邸や公用車の中で語る私的な姿に迫る。とはいえ、それもまた権力の手のひらの上で踊らされているにすぎない。自分の家族に向けた暴力を大統領には行使できない。むしろその点が露呈している。
1 -
3件表示/全3件