同じ下着を着るふたりの女の映画専門家レビュー一覧

同じ下着を着るふたりの女

中年のシングルマザーの母親と20代の娘の、暴力と依存の悪循環に陥った親子関係を描いた韓国の新鋭キム・セイン監督の長編デビュー作。相手を完全に愛しきることも憎むこともできない母と娘の関係を、母の愛を求める娘側の視点だけでなく、世間が求める良母になりきれない母側の葛藤にもレンズを向け、ふたりの複雑な感情を丁寧に捉える。韓国フェミニズムやシスターフッド映画の“次”をいく、新たなリアリズム映画として、本国で女性を中心に強い共感を集めた。第26回釜山国際映画祭にてコンペ部門のニュー・カレンツ賞をはじめ、娘役で主演したイム・ジホの女優賞など5冠達成。ベルリン国際映画祭、東京フィルメックスでも上映された。
  • 映画評論家

    上島春彦

    共依存的な母娘関係の話だが、症例の絵解きに終わらない。むしろ分かりやすい解釈をはねつける凄みを感じさせる。とりわけ終盤に現れる停電の場面の真っ暗闇とそこから始まる会話劇は、劇場で鑑賞してこそ。また、病室に置き去りにされる二人のポートレイト写真の表情の理由がさらっと描かれる終局の回想シーンも上手い。似たような母娘映画を日本でやると湊かなえミステリーになるわけか。しかしこちらの生々しさは安直な比較を許さない。同性であることの哀しみが全篇にあふれる。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    女の下着はあらゆる体液で汚れるのだという話で開始したのは「Obvious Child」だったが、本作でもまず経血で汚れた下着が映し出される。娘と母に割り当てられた被害者と加害者の立ち位置が決して説話上の比喩だけに留まらず、法廷で被害者の娘と加害者の母が対面することによって視覚化さえされる。この母親像はヤン・マルボクの侘しい身体表現がなければ成立せず、これが映画でなくてはならない理由はとりわけ終盤に待ち構えている。痛みを知っている側の人間の映画だ。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    いわゆる毒親をめぐる物語である。娘を暴力的に支配する母とその母に抵抗しながらも共依存のようになっている娘の様子が描かれる。「ロゼッタ」や「4ヶ月、3週と2日」など、社会的に抑圧された女性を手持ちカメラでドキュメント風に追いかける作品は今世紀世界中のアート映画界隈で量産消費されてきたわけだが、本作がそれらの中で抜きんでる何かを備えているかというと難しいところだ。闇中の告白や下着の扱いなどにこの作家ならではの人生が焼き付いていることは否定しないが。

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