熊は、いないの映画専門家レビュー一覧
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文筆業
奈々村久生
2010年以降、イラン政府から映画制作を禁止されたパナヒは、自らを被写体にドキュメンタリーとフィクションをまたぐ映画作りを続けた。こうした作り方は容易にマフマルバフを想起させるが、パナヒは昨年も逮捕され、今年保釈後に14年ぶりの出国を果たすなど、抑圧と闘う人生は現在進行形。映画的な手法以前に、パナヒにとって生と映画はもっと同義である。本作ではリモート演出など手段を選ばない撮影法も垣間見えるが、その行動力を支える精神のたくましさには目を見張るばかりだ。
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アダルトビデオ監督
二村ヒトシ
先月この欄で「君は行く先を知らない」について真魚さんが書いておられた意味がよくわかったが、こんな監督の息子として生まれてパナー・パナヒ監督も大変だろうよ。ひどい状況下を逆手にとってダイナミックなエンタメにしてしまう親父のテクニック。撮るだけでも命がけなのに、その状況ではそうしか撮れない「やむをえなさ」をそのまま物語の核にしてしまう力わざ。政治的に本当にヤバい映画こそ「撮っただけで偉い」わけではないのだ。映画は面白くないと伝わらないのだ。因果なことだ。
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映画評論家
真魚八重子
ジャファル・パナヒ監督本人が主演。イラン映画らしく天然メタフィクションの世界観である。渡航が禁じられているパナヒが、偽造パスポートでトルコから国外脱出を試みる男女の映画を、リモートで撮影している。パナヒが滞在する国境近い田舎の村では、彼は著名人だが厄介なよそ者だ。その村でも因習が絡む若者の三角関係が大問題となる。本音を隠す曖昧な話し合いが多い中、急転直下で明かされる二組の男女の行く末。ラストのパナヒの苦い表情とシートベルトリマインダーの虚しい音。余韻の深さ。
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