あんのことの映画専門家レビュー一覧

あんのこと

実在する1人の少女の壮絶な人生を綴った新聞記事に着想を得た人間ドラマ。売春とドラッグに溺れ、荒んだ生活を送る20歳の杏は、刑事の多々羅に補導されたことがきっかけで更生の道を歩み出す。ジャーナリストの桐野も加わり、少しずつ変わり始めるが……。出演は、ドラマ『不適切にもほどがある!』の河合優実、「さがす」の佐藤二朗、「正欲」の稲垣吾郎。監督は、「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」の入江悠。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    こういう悲惨な現実があること、負の構造から抜け出せない人間の痛みを伝えたいという意欲はこれでもかと伝わる入魂の力作である。ただ、もはや時代的に、問題提起だけでは足りない気もする。ソーシャルワーカー的な視点が作り手自身にもっとほしい。社会を変えたいという思いより、悲惨な現実を見せつけたいという熱量が上回っている感もある。また、不祥事を起こした人間の悔悛を描くより、週刊誌報道のケア不足に物申すのが先立ってしまうのは、まさに業界の問題点そのものでは。

  • 映画評論家

    北川れい子

    コロナ禍での実話をべースにしたそうだが、主人公・杏の生活環境が、昨年の秀作「市子」とかなり類似しているのはあくまでも偶然だろう。団地住まい。無職で男出入りの激しい母親。寝たきりの家族。市子は巧みにそんな環境から逃げ出して自分の人生を生きようとしていたが、杏はそこまで強くない。家族の生活費は杏が売春で稼ぎ、しかも杏はシャブ中。そんな杏がある警官に出会い自立の道を歩み出すのだが。入江監督のリアルに徹した演出と、河合優実の心身を投げ出したような演技は痛ましくも力強い。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    コロナ禍に埋もれた実際の事件を掘り起こすのは良いとしても、現実の事件に対して虚構が追随するだけになっている。今や竹中直人と同枠の佐藤二朗のシリアスかつふざけた演技は虚構ならではの存在を持つはずだが、作者がどう捉えているのかわからず。河合優実が隣人の早見あかりから幼児を押し付けられる後半のフィクション部分は、早見の身勝手さと作者のご都合主義に呆れるのみ。好調の河合にしても、彼女ならこれくらいは演じられるだろうと思えてしまい、驚きがない。

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