コット、はじまりの夏の映画専門家レビュー一覧

コット、はじまりの夏

第95回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートなど、世界の映画祭で注目されたアイルランド作品。大家族の中でひとり静かに暮らす9歳の少女コットは、夏休みを親戚夫婦の家で過ごすことに。2人の温かな愛情を受けながら、やがて少女は自分の居場所を見つけてゆく。本作で鮮烈デビューを果たしたコット役のキャサリン・クリンチは、史上最年少の12歳でIFTA賞主演女優賞を獲得。数々のドキュメンタリー作品を手がけてきたコルム・バレードによる長編劇映画初監督作。
  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    愛された実感を持ったことのない9歳の少女が、遠い親戚にあたる夫妻の家でひと夏を過ごすうちに、生きる喜びを見出していく、となると類似作品はこれまでたくさんある気がするけれど、口数の少ない彼女を見守るうちに、彼女が何を感じているのか、内側で何が起きているのかがひしひしと伝わる丁寧な演出。夫妻のうち、温かい妻との交流もいいが、最初コットにどう接したらいいのかわからずにいた夫が、やがて打ち解けていく過程が心にしみる。コットの疾走は、感情の覚醒そのもの。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    アイルランドの田舎町を舞台に、9歳の少女が夏休みを遠い親戚夫婦に預けられ、そこで自分の居場所を見つけていく。アイルランド語映画として歴代最高の興行収入を記録した本作は、現代の都市生活者にとって一服の清涼剤となるような大自然と少女のピュアな生活を丁寧に描く。しかし私のようなひねくれ者にはあまりにもひねりのない展開に逆にイライラ。誰もが好感を持つ「少女、動物、大自然」は映画作家としては禁じ手なのではと思う自分は都会とダークな作家映画に毒されすぎか?

  • 俳優、映画監督、プロデューサー

    杉野希妃

    コットが草に覆われているファーストショットでまず胸を鷲掴みにされた。単調にもなりかねないシンプルでミニマルな物語だが、コットと親戚夫婦が心を通わしてゆくひとつひとつの描写が丁寧に紡がれており、繊細な刺繍のような趣き。草花の囁き、木漏れ日、波紋、日々の生活で何気なく目にする自然の美しさを掬い上げ、五感に訴えかけてくる。互いが真にかけがえのない存在であると示唆するラストシーンが格別に素晴らしい。「わたしの叔父さん」にも通じる北欧系オーガニックフィルム。

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